私、フルフル=オウル=ノワールイーグルは、人間ではない。 などと言うと大抵の者が顔をしかめ、何故か同情するような目を向けるから普段は言わないのだが、私の本当の分類は、この国の八百万の神が一人、鳥類を統べる鳥の王、不死鳥フルコキリム。フル・コキリムと言う風に切って読むのが通例だ。 この名前には『漢字』と言う文字による当て字が存在しており、古々霧々と書くそうだ。先ず読める者など居ないから、頭二文字を取ってフルフル。フルフル=オウル=ノワールイーグル、それが私のもう一つの名前。オウルはフクロウで、ノワールイーグルは黒鷲。名は体を現すのが『神の側の者』の流行らしいので、クロワシミミズクの姿を借りてこの町を見守っているのが、この私と言う存在の正体だ。 神の側の者には人間の仲間など不要で、私には当然、同じく神の側の者の仲間が居た。 彼は八百万の神が一人、破壊欲を司る欲望の王。その目に宿す漆黒の炎は、人間程度を歯牙にも掛けぬ凄まじき悪意と迫力を持ち、私はそれに尊敬の念を抱いていた。 私が鳥の王ならば、彼はヒトの王だろう。町を見守る神と言う点で相違は無いのだが、しかし一つだけ決定的に違う点が存在していた。 私と同じように町を見守りながらも、彼には一つの『使命』があったのだ。 その使命について語る前に、もう一人だけ、ニンゲンでありながら神の側の者と深い関係を持つ一族を紹介しておこう。 今より遥か昔、この私、不死鳥フルコキリムと契約し、永劫を見届ける力と業を背負った一族が居た。 その一族は私の不死の力を借り、私と同じように永久に生き続ける力を手に入れた。どれだけ深手を負おうとも、激痛によって精神が崩壊しようとも、決して死ぬ事も許されず、成長が老いへと変わる刹那の状態を永劫留め続けるこの力から解放される手段はただ一つ、『子を残すこと』だけ。 しかし、子を残した瞬間、この力はその子へと器を変える。そのため、どんな手段を以ってしても、この力から真の意味で解放される方法は、無い。 こうして世代を超えて永劫憑き纏う不死鳥の呪いは、科学の発達した世界にスキルと言う名の魔法が発掘され、常識に革命が起きたこの時代にも、その力を失わずに残していた。 死なないだけならいいじゃないか、と言われるかも知れないが、この力の真価は『不死』では無い。この力を得たものは生れ落ちたその瞬間、呪いを持っていた先代の記憶を全て継承してしまうのだ。呪いは連鎖するから、積もり積もって継承される記憶の総量は、ついに4桁の大台に乗った。 赤子のうちから、1000年以上の長きに渡る歴史の全てをその脳に刻まれる苦しみと、しかし不死によって死ぬ事を許されぬ悲しみ。 そんな宿命を背負った、今の時代を生きるその一族の末裔の名は――― デンリュウ。 政府が裏で支配するスキル研究機関『学園』の最高責任者『校長』の地位に座る者。 ************************** 迷宮学園録 第二十二話 『ヒト×神×超存在』 ************************** 外見こそ若く見えるが、一体何年あの姿で居るのか、私はいちいち数えていないから覚えていないが。 デンリュウは、私との契約を、自分の代で全て終わりにしようとしていた。これ以上辛い宿命を子孫に継がせたくないと、自分が死ぬほどの苦しみを味わいながらも尚、心に誓ったのだ。 普通なら、そのあまりの苦しみから逃れるために、敵意と悪意に心を染められてしまうと言うのに。 神の側の者の私すら感動させるほど、デンリュウは優しく、強かった。 しかし、だからと言って、契約を破棄する事は出来ない。 正直、私にもどうしたら良いのか解らない。如何すれば呪いが解けるかなんて、考えた事も無い。 受け継いだ記憶を頼りに私の前に現れたデンリュウに、私は何もしてあげる事が出来なくて、ただ一言『帰れ』と告げたその時だった。 「じゃあ、『俺の力』と契約して、不死鳥の呪いを上書きするか?」 欲望の王は、デンリュウの背後に立ち、厳かとは程遠いほど人間味に溢れた傲慢な声色で、そう言った。 「俺の力の代償はお前の代だけに訪れる災いだが、お前の心がけ次第では平穏無事な一生を過ごせるだろうよ……くくくくくく……ッ」 デンリュウは問う。 藁にも縋りたい、そんな思いしか無かったはずのデンリュウは私が思ったより冷静で、新たな契約による『代償』を訊いてから自分で判断すると言う賢さを見せた。 それは、結果的に契約を受け入れることになったのだから、意味は無かったのだけれど。 「なぁに、そう硬くなるな。こっちは破壊を司る神だが、ただの破壊神とは違う。一応はこの地方を守っていく役目を持ってるんだ。だから、それに関して、言い方を変えるならこの俺から『お願い』をしたいっつーワケよ」 「お願い……?」 「そーさ。知ってるぞ、お前……っくくく、かなりヤバいスキルの研究してるんだろ?」 「―――ッ!!」 例えばよくある冒険物語で。 悪い人間が、悪の大魔王を召喚して町を襲う、なんて話がある。 手垢塗れのよくある話だが、それを実際に実行しているニンゲンが居るとしたら、一体何人がそれを信じるというのだろうか。 通称『Xプロジェクト』。空間系スキルと召喚系スキルを組み合わせて、彼らがやろうとしている事は単純明快、異世界に存在する怪物の召喚だ。何のために? そんなの、ニンゲンの都合だから私の知ったことでは無いけれど、歴史の暗部に少しでも理解のある者ならば、政府が管理するスキル研究機関でそんなスキルを研究している事の意味は解るはずだ。表向きは学園、その実態は政府が関わるスキル研究機関。その最高責任者であり校長と言う立場に立つのが、不死鳥の呪いによって過去の1000年以上の知識を持つデンリュウなのだ。 そのデンリュウにならば、可能な『お願い』。 「その研究、ぶっ潰してくれとは言わないが、止めて貰いたい。コレはニンゲンのためでもあるし、俺たち神の側の者のためでもある」 神の側の者は、ニンゲンよりさらに上に立つ者。 しかし、『上に立つ』とは、『下』が存在して初めて成り立つ理屈であり、下が絶滅した暁には、私たち神の側の者ですら、見事に底辺に叩き落されてしまうのである。 この世界には私たちの上に立つ者など殆ど居ないが、例えば床に消しゴムを1つ置いて、それを指差して『生態系の頂点!』などとは誰も言えぬように、概念には概念なりの体裁と言うモノがあるのだ。 頂点の下には、必ず下位の者が存在しなければならない。 それを守り続けるためには、この世界には存在しない恐ろしい何かを不用意に呼び寄せる研究は、絶対に止めて貰わないと困るのだ。 「もしも研究が継続されていたら。俺は俺に授けられた破壊の力を以って、あのスキル研究機関を、お前の大事な生徒諸共まとめてぶっ壊してやるよ。勿論契約の後ならお前からは不死の力は無くなっているから、お前諸共壊してやる。実に簡単だろ? くっくくくくくく……!」 デンリュウにも、立場がある。 そう簡単に止められるハズも無いだろう。もしそうなら、彼女の性格であればとっくの昔にこの計画は永久凍結になっているはずだ。 それでも尚、欲望の王が嘲笑うかのように笑うのには理由がある。 彼は破壊の神だが守り神で、しかしそれでもやはり破壊神なのだ。 ナニカを、壊せるなら、喜んで、壊したかった。 欲望の王と名乗りながら理性的だったために、それを実行に移したことは一度も無いけれど、彼の心の内に滾っていた破壊への衝動を私は知っている。 だから彼は内心、言葉とは裏腹に、デンリュウには約束を破ってもらいたかった。 約束を破らせて、何もかもを破壊しつくしてやりたかったのだ。 デンリュウは暫し考え込んでいたが、この欲望の王の本心についてなどは微塵も考えなかった事だろう。 やがて、彼女が首を縦に振った瞬間の欲望の王の勝ち誇った笑みは、鳥肌が立つほど素敵だった。 ……それから何年経っただろうか。 その日、欲望の王は朝から元気が良くて、私は思わず何かあったのかと尋ねた。 すると彼は、『約束が破られた』と、満面の笑みでそう言って、例の学園へと飛んでいったのだ。 私は後を追わなかったが、後々、これを死ぬほど後悔したのは言うまでも無い。 ……その日、唐突に、欲望の王は消滅してしまった。 私が後を追えばどうにかなったかと言うと、それは多分、どうにもならなかったと言うのが一つの答えなのだろうが、それでも私は後を追わなかったことを後悔する。 …………… 「犯人が捕まった!?」 ゼンカに会うべく、私は学園の中をうろついていた。 あの後、警察に事情聴取のために連れて行かれたゼンカの後を追おうとした私はキュウコンに捕まり、そのまま教室へと連行されてしまったから、あれっきり会っていないのである。 今後について大事な話が控えていただけに、キュウコンを恨まざるを得ないのだけれど、恨んだところで何も変わらないから、残り僅かな時間を身を削る想いで待つことにする。 そうして教室で私に与えられた椅子に座っている時、教室の入り口で誰かがそう叫ぶ声が聞こえて私はハッとした。 犯人とは、既に噂になっている例の大量殺人事件の犯人の事だろうか。 もしそうだとしたら、たった今そいつとXの関連性について探ろうと考えていた私にとっては、先を越されたと舌打ちせざるを得ない。 警察のくせにやたら行動が早いじゃないか、こんな時ばかり頑張りやがって、そう心の中で不満をぶちまけていた時、既に叫んだ生徒の顔色は完全に青ざめていた。 数人の生徒が彼に駆け寄ると同時に、その彼を優しく押しのけて入ってきたのは、キュウコンだった。 彼もまた、その表情にいつもの明るさは微塵も無い。それは確かに、リシャーダと言えば私は面識は無いけれどこのクラスの生徒だったと言うではないか。 クラスの一人を失った直後に明るい表情を求めるのは酷だと解っていたが、しかしそれとは別の理由でキュウコンが生気を失っているようにも見えた。 「皆は、もう知っているかも知れないな。朝から、噂になっている事件の事だ。残念だが、我がクラスの一員を欠く事になって、正直俺にも、何を如何したら良いのか、解らない……」 キュウコンは、まだ噂の真相を知らぬ者も居るかも知れないと言う配慮で、先ずは噂になっている今朝の事件のことから話を切り出した。 誰も茶々を入れず、真剣にキュウコンの言葉に耳を傾ける。 しかし、その話だけでは説明がつかないほど、キュウコンの言葉は重かった。 その理由は、すぐに本人の口から語られた。 「……犯人が捕まったそうだ……皆、信じられないだろうが、真剣に聞いて欲しい」 教室全体がざわめく。もう捕まったのかと、安堵の声すらも聞こえる。 しかし、キュウコンの普段とは180度違った真剣過ぎる様相に、そのざわめきは直ぐに沈静化した。 その沈黙を数秒、噛み締めたキュウコンは、犯人の名を告げた。 「ゼンカが、全部の犯人だったそうだ……。失踪していたフェルエルが無事に保護されたんだが、……彼女の証言から、犯人はゼンカで、間違いないらしい……表向きは拉致監禁の容疑者として、だが。ほぼ、確定だそうだ」 この時、私は一体、どんな表情をしていたのだろう。 ただ一つだけ頭の中に思い描く事が出来たのは、ここからが本当の戦いだ、と言う決意と覚悟だけだった。 市内某学園の生徒十数名が殺害された当日、同学園の生徒Zが、同級生を拉致監禁した容疑で緊急逮捕された。警察は、大量殺人事件との関連性も視野に入れて取調べを行っている。また、同学園には他にも数名の失踪者が居り、警察は引き続き失踪者の捜索に当たる方針だ。 生還した被害者の証言から彼の犯行は決定的であるが、生徒Zは依然として容疑を全て否認している。 「俺を騙る誰かがこの学園に居る、そいつを捕まえろ」と言う言葉を残しているが、真相は不明。 失踪者の一人で、無事に保護された生徒Fは犯行時の記憶がトラウマになっているらしく、救出後は酷い錯乱状態にあり、市内の病院に搬送されて面会謝絶となっているため、一切の真実は、現時点では闇の中に隠されてしまっている。 ………… 3年校舎にのみ存在する、生徒の最高峰の地位の者と、その直属の部下だけが自由な出入りを許される空間、生徒会室。 ハルクが日課であるスキルの鍛錬を終えてその部屋に戻ってきた時、鍵が『開けられて』いる事に気付くのは必然であった。 何故なら、この日課が行われる時間帯がまだ日も昇らぬ早朝であり、他の生徒会役員は全員帰宅或いは別の教室で寝泊りしているため『この部屋』にはハルク以外の何者も存在せず、故に鍛錬の時間には必ず鍵を掛けて出て行くからである。 その鍵が開いていると言う事実は決してハルクの無用心さの現われではなく、『何者かが鍵を開け、中に侵入した』と言う事を直感―――否、確信させるに足る現象なのだ。 しかし、ハルクと部屋の中を隔てる一枚の豪華な扉には何の意味も無い。 ハルクの『目』には、この扉の向こうに『誰かが居ること』と、『その者に敵意が無いこと』の両方がはっきりと見えていたのだから。 だから、堂々とドアを開け放ち、そして――― 「そこは俺の椅子だ。勝手に座らないで貰おうか」 「えー? いいじゃんケチ」 昨日、2年生に編入してきた女、フルフルが生徒会長の椅子に座っているのを咎めたのだった。 無論、ハルクはこの女の事は既に調査済みである。 こんな時期に突然現われ、しかも例の事件の直後だと言うのに、この女を警戒しなくて良いと断言できる要素など何処にも在りはしないのだから。 しかしハルクが知っているのは、フルフルが2年生に編入するだけの、相応のスキルの実力が在ると言う事と、逮捕されたゼンカとやたら親密だったと言う周囲の証言だけだった。 何故それしか情報が無いのか、その答えは簡単だ。どれだけ調べても、彼女に関する記録が一切出てこなかった、それだけの事に過ぎない。 ハルクは、自分の迂闊さを呪った。 こんな淀んだ目の女を相手に扉越しに敵意の有無を測るなんて、あまりに無謀な賭けだったのだろうかと。確実主義者から言わせれば、それは賭けにすら及ばない単なる凡ミスだった。 この女は殺意も敵意も一切見せずに、狙った獲物を的確に刈取る事が出来るタイプの人間だ。 本当に人間か? と疑いたくなるほど、機械的に狩りを遂行できる『目』をしている。 暫く、そんな事を考えながら女の目を見ていると、女はニヤリと―――マフラーで隠した口の端が僅かに見えるくらいに笑みを浮かべて、椅子を空けた。 ハルクは、しかし空いた椅子に腰掛けず、ドアの付近に立ったまま、フルフルが何か言うのを待っていた。 根競べのような沈黙が早朝の生徒会室を包んでいたが、フルフルが先に言葉を発したのはちょうど、窓から朝日が差し込んできた頃だった。 窓は会長の机の後ろにあるから、フルフルは朝日を後光のように背負う形になっていた。 「将棋で勝つために必要なことって、何か知ってる?」 王将は戦わない。 それだけを告げるのに、わざわざそんな前置きを置いたのは、お互いに器量を測り合うために。 ハルクはその一言だけでフルフルの価値を見抜き、フルフルはハルクの様子を見て、その価値を確信した。 Xを追う上でお互いがお互いに武器になる事を知り、後はXを追い詰める共同戦線を張ることに同意するまで、数刻ほどの時間も必要ではなかった。 ………… 「はー……」 1年校舎職員室。 2年校舎には職員室が無く(当然3年校舎にあるワケもなく)、それ故放課後ともなれば業務を終えた教員たちは各々疲れ切った表情を浮かべながら一旦この部屋に集まってくるのだ。 時間は刻一刻と流れるばかりではなく、あれから日付も容赦なく流れ続けていた。 リシャーダは死亡、ゼンカは拘留、フェルエルは保護されたものの入院したまま戻って来ず、サンダーは未だにその姿を表舞台に現さない。四天王全員が学園から姿を消してしまった2年生の雰囲気は暗く淀んでいて、一言で言えば最悪だった。 キュウコンは、何時までも自分が落ち込んでは居られないと頑張って奮起しようとしていたのだが、しかし、最近の2年生のテンションの下がりっぷりに、精神がほとほと参っていたのだった。その結果が、この溜息である。 同様に、数名の2年生担当教員たちも各々、疲れきった様相をその存在感だけで表していた。 「お疲れ様です、キュウコンさん」 「お、ありがとうサナ先生。すみませんね、いつもいつも」 「いえ、私が好きでやっていることですから」 サナは、職員室に戻るやいなや真っ直ぐ自分の机に座ってうつぶせになってしまったキュウコンの頭の横に、淹れたばかりで湯気の立ち昇るお茶を差し出した。 サナは、誰に対してもこうして気を遣っているので、新人でありながら既に教員たちの間では一目置かれる存在になっていた。 生徒からの人気も高く、誰もが彼女のような教師になりたいと、憧れることだろう。 或いは、自分も昔はあんな感じだったなぁと、現実と理想のギャップに潰されないように妥協を続けてきた者は己の過去を振り返るかも知れない。 キュウコンはサナの淹れてくれたお茶は、世界で一番美味しいと思っていた。 彼が他に知っている誰かの淹れたお茶と言えばユハビィが淹れるそれだけであり、それの酷さは一口含むだけで舌が爛れてしまいそうな錯覚に陥る出来栄えなため、彼自身が最近自分でお茶を淹れないのは、サナが出してくれるお茶を内心期待しているからかも知れない。 そんなキュウコンがお茶を拝むように啜るのを、サナはお盆を持ったまま暫く見つめていた。 「………」 「……どうかしたかい?」 「いえ、……あの、実は、ちょっとした提案があるんですよ……」 「提案?」 何故、今から20分後に開かれる職員会議の場で言わずに、先にキュウコンに打ち明けたのか。 その理由は、サナにとってキュウコンが非情に話しやすい相手だったからかも知れない。 サナは新人にして人気者であるが、キュウコンだってまた、『相談相手にしたい人ナンバー1』と言う嬉しくも悲しい称号を持っているのだ。サナはそんなキュウコンの悲しい事情は知らないが、しかしサナほど人間的に『出来て』いれば、キュウコンが相談相手としてこれ以上無い逸材である事を見抜くのに、5分以上の時間は助長だと言い切れたかも知れない。 「……こんな時期に、こんな事、もしかしたら余計なお世話かも知れないですけど……」 「いいよ、言ってごらん」 「2年生の方々も、来週のレクに参加していただくのはどうでしょうか」 その提案に、キュウコンはサナの目を見つめながら、暫し考えた。 サナは、そのキュウコンの反応を見て、やはり口が過ぎたかと思ったのか申し訳無さそうな表情で俯いてしまう。 しかし、すぐにキュウコンは笑みを浮かべて立ち上がり、サナの肩に手を乗せた。 「いいアイディアじゃないか。こんな時期だからこそ、楽しいイベントが必要だよ、うん」 「―――! それじゃあ……、今日の会議で!」 「あぁ。誰も反対なんてしないだろうさ、何なら俺も手伝うよ」 「ありがとうございますキュウコンさん! それじゃあ当日のプログラムなんですけど―――」 ハルクとフルフルの思惑とは関わらぬところで。 物語の決着に関わっているともいないとも解らぬレベルで。 『決着の日』である『4月23日』に向けて、学園全体が動き出していた。 1・3年だけでなく、2年生までもが参加する事となった学園レクリエーションの日。 ハルクは、信頼する部下と共にフィノンを討つべく、着々と作戦を練っていき、鍛錬を積み続け。 フルフルはハルクと共謀し、『4月23日』にXを追い求める。 ……ゼンカは、暗い牢獄の中で何も出来ず、不毛な取調べを繰り返していた。 Xは今何処で何を思うのか、それは誰にも解らない。 誰一人として、Xの尻尾は愚か、その影さえも掴めてはいない。 最期の瞬間は華々しく。 そしてついに、『その日』が訪れる――― 続く |
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