マイケルジャクソンとして定着してしまった俺は、 転校生よろしく(両方の意味で)な感じで、 休み時間の度にクラスのみんなに囲まれるのであった。 ネバーランドはどうしたのとか、 やっぱり子供が好きなのとか、顔は何回整形したの、とか。 ホント沢山の質問をぶつけられたが、 とりあえず全部『スペースパワー』と言う事にしておいた。 宇宙の力は偉大なのである。 すると、また俺を囲んでいた連中は口を揃えて 『すげー! マイケルすげー!』とか言うのだから、 アホか。アホばっかりなのかこのクラスは。と思った。 なぜかマイコーのモノマネには一通りの心得があったので、 俺は名実共にマイコーになってしまったと言うわけだが、 クラス名簿にマイケルと書いたら、さっそくデンリュウ校長に呼び出された。 「……あなたは、誰なんですか」 「俺は、ジャック=バウワー。いつも死にかけ」 この辺にツボがあるらしい。 デンリュウ校長は、暫く笑い転げていた。 結局その日のうちに俺の本名は暴露されたが、 クラスのヤツからはマイコー、デンリュウ先生からはジャックと呼ばれるようになり、 何だかもうある意味イジメなんじゃないかみたいな感じになっていた。 自業自得なんだけど。 オイ、ところで一つ訊きたい。 連載予定は無いとかほざきながら、 なんで俺はまたこんなところに居るんだ? ************************** 迷宮学園録 第二話 『最初の授業』 ************************** 「スキルを使う上で重要な要素と言えば何だ、アーティ」 「うげ、オイラかよ…。えーっと、……さ、才能か?」 「そうだな。プロテインだな」 「一言も言ってねぇぞッ?!」 笑いが巻き起こる。 と、フリード先生は今度は一番最初に笑ったアディスを指差した。 目敏いな、クラス全体が見えてるのか。 なるほど、視野の広さは教師向けである。 「じゃあアディス。お前は何だと思う?」 「そうだな……『気力』の高さじゃないか?」 アディスは自信ありげに言った。 気力って何だ。精神論なのか? 所謂MPってヤツ? しかしフリードもうんうんと頷きこそしたが、 その解答に満足はしていないようであった。 「それもある。気力が高いほど沢山のスキルを使えるし、威力も上がる。だが、それ以上にスキルの威力に大きな補正を与えるものがあるんだ―――なぁ、委員長」 委員長と呼ばれたのは―――誰だっけ。あぁ、ピカチュウか。 「『属性』ですわね。これくらい常識でしてよ? AAコンビ」 アディス・アーティでAAコンビか。なるほど。 しかし今度は『属性』とな。サッパリついて行けない。 かと思ったら、大半の生徒もまだ知らない内容であるようだったらしい。 あちこちから溜息に似た歓声が洩れ、ピカチュウの知識を讃えた。 フリードは黒板に『属性』と書くと、教科書を開くように言う。 皆がゴソゴソと教科書を開く中、俺はまだ教科書を持ってないので、 ペアとなって隣に座っているフィノンに見せてもらうことにした。 「10ページを開けてみろ。開けたか? よし、じゃあフライア、読め」 「は、はい。えっと……」 フライアが教科書の文章を読み上げ始める。 しかし悪いが、俺は一足先に教科書を黙読する事にした。 教科書によれば、属性とは個人個人に備わっている血液型のようなもので、 属性が一致しているスキルは、本来よりも性能が高まる、らしい。 教科書のトピックには、属性の調べ方みたいな事が書いてあった。 ちょっと手順が面倒くさいな。ん、最近は機械でも調べられるのか。 「……です」 「よし、ご苦労。それじゃ早速だが、これから皆の属性を調べてみようと思う」 「うおお! マジかーー!」 「よっしゃあああ!」 湧き上がる歓声。 どうやら皆、スキルの威力向上についてはかなり貪欲らしい。 確かに魔法が使えるってのは面白いことだが、 なんでそこまで威力に拘るのだろうか。 威力が低くても、頭を使えば何とかなる気がするんだが。 とりあえずフィノンに訊いてみる事にした。 なぁに、ペアになったんだから多少コミュニケーションは必要だろう。 「なぁフィノン。スキルの威力ってそんなに大事なのか?」 「うーん……大事といえば、大事かなぁ……成績にも影響するらしいし」 「『らしい』?」 「うん。この学校ってさ、基本何でも自由でしょ? だから、逆に成績の付け方とかが解らないんだよ。噂によると、実技試験とかでスキルを使ったバトルとかもやるらしいし……だから皆一生懸命なんだよね」 実技試験か。それまた面白そうなものがあるんだな。 いや、ある『らしい』か。 なるほど、常に他の連中と張り合っていく事になるから、 他のヤツに差をつけようと皆一生懸命なワケだ。 そうこうするうちに、前のほうの席から何か小さい機械が廻って来た。 何処かで見たな。あぁ、さっき教科書で見た機械で測るヤツに似てる。 メーカーが違うのか教科書が古いのか、思ったよりさらに小型だった。 既に測定を終えた前のほうの連中は、 まるで血液型の情報交換をするような感じで他の連中とダベっていた。 などとモノローグで情景描写しているうちに、 先に機械を受け取ったフィノンが測定を終える。 「私は炎属性か。はい、ゼンカ」 「おう」 …このクラスで俺をゼンカと呼んでくれるのは、唯一フィノンだけだった。 体温計みたいな大きさで、先端に金属板が貼られた棒状の機械を受け取り、測定開始。 金属板を身体の何処でもいいから押し当てて10秒待つと結果が出るらしい。 ……何処でもいいのか、よし。 俺は徐に上着を脱いだ。 それを見ていたフィノンが顔を真っ赤にして、叫ぶようにツッコむ。 「なんで脱ぐのっ!?!?」 「お前のツッコミがどのレベルなのかを確かめるためだ」 「そんなことでいちいち脱がないでっ!!」 「ははは、スペースパワースペースパワー。宇宙のオトモダチ〜」 脱いだ上着を再び着込み、 とりあえず皆がそうしていたように手の平に金属板を押し当てた。 結果は……クイズミリオネアみたいな気分になりながら、 機械についている小さいモニターを覗き込む。 10秒後、画面が変化した。 …NORMAL ノーマル、って読むんだよな。 ノーマルか。ノーマルね。ふーん。 そうだとも、俺は至ってノーマルなんだぜ。 別に子供を誘拐したりとかはしないからな。 良かった。さっきの行動で、アブノーマルとか表示されなくて。 「へぇ、ゼンカはノーマル属性なんだ」 「強いのか?」 「弱点は突けないけど、逆に弱点が少ないから無難に強いよ」 「無難に強いのか」 無難とか言われると素直に喜べない。 つーか、弱点って何だ。 「スキルの攻撃にも属性が付いててね、自分の属性と一致すると威力が上がるんだけど……それだけじゃなくて、相手にとって苦手な属性で攻撃した場合、相手が受けるダメージが大きくなるんだよ。例えば、火は水で消されるから、炎タイプの私は水属性攻撃に弱いって事だね」 「へぇ。小難しいな」 「弱点一覧は教科書の巻末に載ってるよ。早く教科書買わないとね」 「そうだな。よし、帰りに買いに行くぞ」 「私も!?」 グッとフィノンの肩を掴まえて期待の眼差しを向ける俺。 フィノンはやれやれと溜息を付きながらも、 首を縦に振らないとその手を離してもらえない事を悟ったらしく、 諦めたように解ったよと言って首を縦に振った。 ……… 昼休み。 学食は金が掛かるから無理だし、かと言って弁当も持っていない俺は、 腹の虫を鳴らしながら机の上でへバっていた。 「ち、ちくしょう、お金が欲しい。食べ物が欲しいよう。そういう気持ちでこの歌を作りました。聴いて下さい。『ごはんが無い』。ららら〜ザ・ラック・オブ・炭水化物ゥ〜」 「何の歌かは知らないけど……た、食べる?」 隣でサンドイッチを広げていたフィノンが、 それを指差して俺を誘ってくれた。 おお、さすがペア! やはり持つべきものは友達だよな☆ 「んじゃさっそくいただきま――」 「っと待ったぁぁあああああッッ!!」 「ぶがああッ!!」 フィノン手作りっぽい、一口サイズの可愛いサンドイッチを掴もうとした矢先、俺の後頭部に何か(多分教科書)が激突し、俺は前のめりにぶっ飛んで机と額を激突させた。 暫く机にディープキスをかました状態でピクピクと痙攣した俺は、何とか意識を保って起き上がると、突然後ろから奇襲攻撃を仕掛けた何者かに向かって吼える。 「……ってぇな!! 誰だコノヤロー!」 「はー、はー、ま、間に合った……! フィノン! アンタ不用意に人に自分で作った料理をあげちゃ駄目って教えたでしょっ!?」 「り、リシャーダ姉さん! 何で姉さんが此処に居るのよ! ここは1年校舎よ!?」 「関係ないわ! これ以上無駄に犠牲者を増やすわけにはいかないの! 来なさい!」 「ちょっ、姉さん! 痛い痛いっ! 離してってば〜〜〜ッ!!」 ドタドタドタドタ! ガラガラ! ピシャ! 突如として乱入してきた女は、俺にぶつけた本を回収すると同時にフィノンの弁当箱とフィノンを掴まえると、そのままズカズカと教室から退場していった。 サンドイッチを食いそびれた俺は、呆然としながらそれを見送る。 教室全体も今の騒動で騒然となっており、何人かが俺の方にやってきた。 「お、おい、マイケル。なんだ今の…」 「俺が知るか……それより、腹減った……」 結局心優しい数名の友からのお恵みで、その日は何とか持ち堪えたのだった。 持つべきものは友だよな。まさか、こんな異世界に来てそんな事を痛感するとは。 後々聞いた話によればあのリシャーダなるフィノンの姉らしい人物、 この学校では『リーフブレードのリシャ』と言う通り名で畏れられており、 この学校の2年生四天王の一人に数えられるほどの実力者だそうだ。 因みに3年生にも四天王は居るが、それは2年を遥かに凌駕する化物揃いらしい。 うむ、是非とも関わり合いにはなりたくないな。 などと言うと、必ず関わり合いになってしまうのはお約束なのだが、 それはもう少し先の話。……良かった。 ……… 午後の授業はスキルを用いた体育の授業だ。 一同ジャージに着替えてグラウンドに集合。 ジャージをまだ持っていない俺は特別にモノマネ用のマイケル衣装での参加を許されたが、そこは何とか食い下がって私服での参加となった。 フリードの野郎は俺をどんなキャラ付けしようと企んでやがるんだ。 そんな感じで着替えの必要ない俺は、暇だったので女子更衣室に遊びに行く事にした。 ふふふ、お約束お約束。 「ジャック君、そっちは男子禁制ですよ? くすくす」 「―――!!! ……な、なんだ、デンリュウ先生か……」 「突然後ろから声をかけられ、心臓が飛び出してしまった。 慌てて床に落ちた心臓を回収し、身体の中に入れる。 あ、この間なくしたと思った500円玉が心臓の中に入っていた。 何と言う僥倖だろう、こればかりはデンリュウ先生に感謝である。」 「何グロいモノローグを喋ってるんですか! やめてくださいッッ!」 「くすくす、あらあら。私、何か言いましたか?」 「俺の心臓は跳ねる事はあっても飛び出したりはしない!」 「あら、そうなの……残念ね」 「何を以って残念なんだ!? アンタは俺を人間以外の何かにしたいのか!?」 笑顔で俺のツッコミを無効化するデンリュウ校長に、しかし負けじとツッコミを重ねる俺。 ボケも出来てツッコミも出来るパーフェクト超人な俺ではあるが、 しかしこのデンリュウ校長のパワーの前では成す術が無い気がした。 「さて置き。そっちは男子は入っちゃいけませんよ」 「そこを何とか」 「そうですね……入場料5000円です」 「買った!」 5000円で夢の世界へのチケットが買えるのなら安いものだぜ! 俺はすかさず挙手をしてチケット購入を申し出るが、 よくよく考えたらこっちの世界には財布など持ってきていないから、 5000円なんて大金をこの場で払う事は出来なかった。 「すんません、身体で払うんで勘弁してください」 「あなたにとって最高級の条件じゃないですか。くすくす」 チッ、看破されたか。 デンリュウ校長を寝取りつつ夢の世界にいける最高級の野望を乗せた我が軍の誇る戦艦は、敢え無く出航直後に敵艦隊の集中砲火を受けて洋上に轟沈した。 まぁ、ジョークの心算だったから別に如何と言う事も無いが。 寧ろこれでOKなんてされた日にゃあ、俺はこの場を裸足で逃げ出す以外に道が無い。 「つーか何してんですか校長」 「あなたみたいな子が女子更衣室に行かないように見張ってるんですよ」 「なるほどね!」 とは言え、うちのクラスで俺と同じ事をするヤツは一人しか居ないだろう。 よく解雇されないよなぁ。フリード。 と、そうこうするうちにクラスの女生徒たちが、ジャージ姿でぞろぞろと歩いてきた。 チッ、デンリュウ校長は上手い具合に時間稼ぎをしたってワケか。 だが俺は諦めないぜ! 諦めないんだぜ! 「更衣室の監視カメラの映像が欲しかったら、5万円で売りますよ。くすくす」 「先生! どっかに日給5万のバイトありませんか! 日払いで!」 明日にでも買う気満々の俺だった。 ……つーかこんな校長でいいのか。 あぁ、そうか。今やっと解った。 だから解雇されねーんだ、フリード。 休み時間も終わりそうだったので、適当にデンリュウ校長と別れた俺は女生徒の後を追ってグラウンドへと向かうのだった。 グラウンドはよく整備された、しかして至って平凡なそれであった。 端の方には陸上部が使っているであろう器具が散乱しており、サッカーのゴールやアメフトのバーなども方々無造作に設置されている。 広いと言えば広いし、並と言えば並だった。 しかし野球部やテニス部が使えそうなものは一切ないから、もしかしたら此処とは違う場所に専用のグラウンドやコートがあるのかも知れない。 そう考えると、かなり広いと言えるだろう。 「よーし、全員集まったな!」 「せんせー、何で顔面がボコボコなんですかー」 「はっはっは、いい男はそれだけで色んなヤツに狙われちゃうからな!」 デンリュウ校長の傍に例の付き人が居なかったところを見ると、付き人は別の位置から更衣室を守っていたらしい。 その成果が、フリードのアザだらけの顔面から推測された。 ……デンリュウ校長が俺を呼び止めなかったら、俺もあぁなっていたのか。 決めた。あと3回くらいにしておこう、こう言う事するのは。 「今日はスキルの練習も兼ねて適当に遊んでみようと思う。各自グラウンドで5分間アップをしたらまた此処に集まってくれ。それじゃ散会!」 あちこちに仲良しグループ同士で散り、準備運動を開始するクラスメートたち。 俺もAAコンビに呼ばれたのでそちらへ赴こうとしたが、その時、孤立しているフィノンを見つけてしまったので、そちらに行く事にした。 「あ、ゼンカ。良かった、私なんだか孤立気味なんだよね」 「こう言う時こそペアで行動するのが一番だろ、孤立してる暇があったらお前から俺のほうに来いよな」 「…ありがと」 孤立する事に対しては特に何の感情も無いらしいが、 俺に誘われた事には素直に笑顔を見せてくれたので安心する。 「でも何でそんな孤立してんだ? お前って別にクラスのヤツと仲悪いようには見えないんだが。と言うか寧ろちゃんとクラスに溶け込んでるように見えたぞ」 「うん、溶け込んでるんだけどね。今日、1年校舎にお姉ちゃん――リシャーダが来たでしょ」 昼休みに俺の後頭部に本をぶつけて去っていたアイツか。 記憶の片隅に、フィノンと良く似た女の姿を思い浮かべる。 「シスコンと言うか極度の妹想いと言うか……物凄くお節介でさ。私がこの学校に入学する前にも、私絡みのことで……色々、あったんだ…………はぁ」 触れたくない思い出らしい。 話しながら、フィノンはどんどん落ち込んでいった。 「今の2年生で、私に告白しようとした男子が居たの。私は別に何とも思ってなかったから断る心算で居たんだけど―――結局、告白すらされなかったんだ。お姉ちゃんのお陰で」 お陰で、の部分に凄い皮肉を感じた。 だが、大方予想できた。 つまり、皆リシャーダの存在を恐れて、フィノンに近付けなかったと言う事か。 2年生の四天王と云われるだけあって、その行動は逐一学校で噂になるのだろう。 噂には当然尾ひれがつくのだから――― 俺は一旦フィノンを残し、AAコンビのところへ向かった。 そして、リシャーダについて知っている事を訊ねる。 勿論フィノンの姉、と言う事実よりももっと踏み込んだ情報―――『尾ひれ』のついた噂ってヤツを。 「何でもフィノンに近寄る男は片っ端から『転校』させられたらしいぞ」 「一人が殺されて一人が消えるんだとよ。オイラには何の祟りかも解らん…」 ……尾ひれのついたリシャーダは、オヤシロ様になっていた。 俺は新しく発見された公式を、忘れないようにメモ帳に書いておく。 リシャーダの武勇伝+尾ひれ=オヤシロ様の祟り ……ありえないから! いくら何でもそれは脚色し過ぎだろ! こんなのどかな魔法学校でそんな凄惨な事件は必要ありませんから! いや、男だけに話しかけてもまだわからないはずだ。 確かにリシャーダの姉としての性格を見れば、フィノンに近寄る『男』を抹殺しようなどと言う噂が捏造されてもまだ理解の範疇である。 だが女ならどうだ! フィノンから見ればそれは恋愛対象ではなくただの友達の範囲、交友の次元じゃあないのか! それでもなおオヤシロ―――もといリシャーダの祟りは生徒を襲うというのか!? 今日転入した俺はまだ親しい女子などフィノンしか居なかったから、 適当に見つけた茶髪に黄色いリボンの女子を捕まえる。 あ、午前中の授業で教科書読んでたヤツか。フライアだっけ。 「あ、えーと……マイケルさん」 「いや、俺の名は斉藤一。新撰組だ」 「あ、すみません、えぇと、じゃあ>>1さんでいいですよね」 「何でッ!?」 俺のボケを、その3倍くらいの破壊力を持ったボケで蹂躙しやがった。 この女、ちょっと天然っぽい節があるが、その内側には魔物を飼っていやがる…ッ! 「で、>>1さん、何か用ですか?」 しかも>>1さんで決定らしい。 俺の解答など、ドラゴンボールGTの『GT』並に存在価値が怪しいようだった。 まぁいいや。もういいや。何かこの子には勝てる気がしない。 「リシャーダって知ってるか? フィノンの姉の」 「えぇ、知ってますよ。何でも、フィノンさんを餌にして女生徒を釣り上げて、夜鍋をしながら手袋を編むらしいです」 「………」 問1。釣り上げた女生徒と、夜鍋をしながら手袋を編むことの関連性を述べよ。 「……きっと、『どっちか』になっちゃうんでしょうね」 問2。『どっちか』が何を指すのか、選択肢から適切なものを選べ。 A:夜鍋の材料にされてしまうこと。 B:手袋の材料にされてしまうこと。 C:AB両方であること。 D:C及びそれ以上の何かであること。 「「D、ファイナルアンサー」」 俺とフライアの言葉がハモった。 なんだか誘導尋問に嵌められた気分ではあるが、 しかし女生徒から見てもリシャーダの脅威は確実に浸透しているらしかった。 何せちょっと天然っぽいフライアでさえこのザマだ。 委員長とかに話を聞いたら、絶対に「知らない」とか言われそう。 でも実際何て言われるか解らないから、準備運動の残り数分も情報収集に使う事にした。 ネクストターゲットに選ばれたのは、当然委員長だった。 ジャージ姿でも帽子を被っているからすぐに見つけられた。 あの帽子は何なんだろう、ファッションなのか、中に何か入ってるのか。 「委員長〜」 「あら、マイコー。何か用?」 委員長としての自覚があるらしい。 嫌な顔一つせず友人とのお喋りを中断して、ピカチュウは俺の方に振り返ってくれた。 「リシャーダのことについて」 「知らない」 ……オヤシロ様の影が、ここでもちらついた。 ぱ、パロネタだからってあまり連呼するのも拙いことなのは解った上で言うぜ、……もしかしたら、た、祟りは、本当にあるのかも知れない……。 そして、その中心にはいつも―――リシャーダが居たんだ……ッ! 「ほ、本当に何も無かったのかよ……!? リシャーダが、この学校で暴力事件とか―――誰かを『転校』させたとか―――」 「無かった」 それは、はっきりとした拒絶だった。 帰りたい、と本気で思ったその瞬間、フリードが笛を鳴らして生徒全員を集める。 棒立ちで硬直した俺の横をすれ違う委員長が、 擦れ違い様に、俺にだけ聞こえる声で呟いた。 「リシャーダを、探らない方がいい」 俺は衝撃のあまり、何時の間にかガックリと膝を付いて居た。 ―――アホだ。アホばっかりだ、この学校。 心底、そう思ったのは言うまでも無い。 続く |
次へ |
前へ |
戻る |