――迷宮冒険録 第四十三話
場所は変わって、かつての戦いの傷跡がまだ各地に残る地方――
「デンリュウ様!」
「あら、アブソルちゃん。良い知らせかしら?」
一匹のデンリュウの元に駆けつけたアブソルが、口早に説明する。
デンリュウは直ぐに真剣な目つきで、それに対する回答を出した。
アブソルはまた走り去っていく。
デンリュウはマントを羽織って、その後を追う。
「こんな時に、ポケモンズの力を借りられないのは厳しいですね……」
そう、呟きながら―――
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迷宮冒険録 〜二章〜
『消失』
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救助隊たちは今、誰にも気付かれない強大な戦いに巻き込まれている。
それは、ポケモンズの一員である『エラルド』が掴んだ事実から始まった、
救助隊組織と秘密結社『種』との全面対決だ。
と言っても、全ての種の構成員がその対決の事を知っているわけではなく、
あくまでこの大戦は秘密裏に行われている。
互いが互いに、表舞台に身を置かない者同士の戦いになっているから――
………
岩山が立ち並ぶ荒野に、二つの影が在った。
「ヘラクロス、大丈夫か?」
「あぁ、だが敵の数が多すぎる…」
自慢の群れを引き連れたかつての七星賢者ヘラクロスもまた、
今は救助隊組織と共に肩を並べる頼もしい仲間だ。
そしてその隣には、何時の間にか彼の親友にまで昇華していたラティオスの姿がある。
彼らは今、種の軍勢との戦いのために此処にいて、
前線で負傷したヘラクロスを一旦この岩陰に隠している。
もう敵味方入り混じった怒声が直ぐそこまで近づいていて、何時までも此処で耐え凌ぐ事は出来ない。
幸いだったのは、向こうの軍勢がせいぜい4〜50匹で、こちらが100匹の軍団だった事だ。
実力では劣っても、数の差で何とか犠牲を出さずに戦いを続けていた。
「ラティオス、何か良い手は無いのか?」
「安心しろ、お前が頑張ったお陰で敵をこっちに引き付ける事が出来た。罠にかけて一網打尽にしてやる」
「へっ、何時の間に用意したのか知らねぇけど、相変わらずだな」
「ふふふ、俺は何時までも足手まといじゃないぜ!」
徐々に剣戟の音が大きくなってくる。
最前列でそれを凌ぎながら後退して来る群れのポケモンたちの中に、ラティアスの姿が在った。
彼女は今まさしく、彼らにとっての勝利の女神かも知れない。
勇猛果敢に敵の中で猛威を振るうラティアスは、かのジャンヌダルクを髣髴とさせていた。
「兄さんっ! こっちはもう持たない! 撤退するよッ!」
「よくやった! 全軍撤退っ!」
ラティオスがそう叫ぶのを確認し、ラティアスは特大の『りゅうせいぐん』を放つ。
それは大地を削り取り、大爆発を起こして一時的に敵と味方の間に障壁を作り出す。
その隙に、ヘラクロスの率いる群れは、全員撤退する。
だが、そんな甘えは種の軍勢には許されない。
彼らはすぐに体勢を立て直すと、削れて歩きにくい大地を難なく越えて突撃してくる。
「―――だが、それが命取りだぜ」
味方が全員撤退し、その後を追う種の軍勢。
タイミングを計り、ラティオスは何時の間にかその手に持っていた何かのスイッチを押した。
―――ドシュウウウウーーーーーーーーーッ!!
「うおおおお!?」
「ぐわああああ! な、なんじゃこりゃああ!!」
「め、目に染みる…そ、それに何だか…」
「くそう…催眠ガスか………」
突如、種の軍勢が通過せんとする大地から白いガスが噴出される。
そしてそれを浴びてバタバタと倒れていく種の軍勢。
眠り粉と痺れ粉を絶妙のバランスで調整した、ラティオス特製の毒ガスだ。
死にはしないが、先ず身体の痺れで動きが止められた後に、
催眠効果で眠りに落とすと言う高性能なガスである。
「いよっしゃあ! 流石だぜラティオス!」
「うっははは! 策士と呼べ策士と!」
「兄さん、調子乗るとまたコケるよ…」
ラティアスが彼の元に戻って来て、呆れ顔でいうのだがラティオスは構わず高笑いする。
「――確かに、敵に回すと厄介ですね…」
「!?」
それはヘラクロスが発した言葉では無いし、彼の部下のモノでもない。
自分たちを見下ろすような場所から放たれたであろうその言葉に、
その場の全員が思わず顔を上げて上を見る。
何時の間にそこに現れたのか―――
「どうやら僕の出番は無かったみたいですね、さぁ戻りましょうみなさん」
強い覇気を持った一匹のバタフリーが、巨岩の上にちょんと乗っていた。
そのバタフリーが、かつてちゃん付けで呼ばれていたキャタピーだと誰が信じるだろうか?
今や彼は、この戦いに欠かせない切り込み隊長として名を馳せていた。
………
「くっ、持ち堪えるんだ! もう直ぐデンリュウ様が此処に来られる!」
「うおおおおおッ! 此処を突破させるなァーーーーッ!」
此処は、かつて奈落の谷と呼ばれた場所。
こんな場所で戦うのはヘラクロス部隊の方が向いてるんじゃないかと不平をいいながらも、
救助隊たちは力を合わせて種の軍勢を押し返していた。
その中に、懐かしい影があった。
「ブラストバーンッ!!」
――ドギャアアアアアアアアッ!!
「リザ! こっちにも頼むッ!」
「OK、派手にぶっ飛べッ!!」
今や『ルカリオランク』にまで上り詰め、現役の救助隊の中では最強と言われる救助隊――
「『FLB』をナメんじゃねええええええええええッ!!」
―――ズドガアアアアアアーーーーーンッ!!
フーディン、リザードン、バンギラス―――
彼らは他の救助隊をリードしながら、雪崩れ込んでくる種の軍勢を抑え込んでいる。
それに協力している影の中にも、チーム『テングス』や『ハイドロズ』など、
懐かしい面影を残しつつも逞しく成長した救助隊たちの姿が在った―――
「――チッ! ファイヤードラゴンの撮影だって詰まってるってのに…!」
「文句を言うなリザ。こいつらを止めないと、放映だって危ういんだぞ」
「わぁーってるよ! くそーこいつら許せんッ! ブラストバァーーーーンッ!!」
今回襲撃してきた種の軍勢はどうやらかなり腕の立つ奴ばかりらしく、
普段は難なく押し返せるところを珍しく苦戦してしまったため、
フーディンはアブソルを一旦戻させてデンリュウの加勢を仰いだのだ。
「てめぇら! 俺について来いッ!!」
「リザに続けッ! 守るばかりで勝てると思うなッ!」
フーディンの言葉に全員が頷き、戦いの姿勢を改める。
持ち堪えるのではない、そんな姿勢ではダメだ!
―――打ち破られる前に打ち破れッ!!
戦いながら、フーディンは思う。
デンリュウの助力は必要なかったかもしれない、と。
相手の強さに珍しく苦戦したから、新米救助隊たちの間に動揺が走っていただけなのだ。
一発喝を入れてやれば、こんな敵に負ける自分たちではない――
少しばかり仲間の力を信じてやれなかったことをフーディンは戒め、
その手に集めたエネルギー波を打ち出して敵を薙ぎ払う。
――そう、失敗。
僅かに敗北の文字を予見してしまったから、
『確実』を取ってデンリュウを此処に呼ぶように言ってしまった。
まさかそれが、最悪の事態の引き金になるとも知らず―――
………
「らいのし! そいつらを止めろッ!」
「――コノヤロウまた抜かれやがってッ! 『極みのかみなり』――『ヘキサボルテックス』ッ!!」
らいのし―――相変わらずそう言うあだ名で呼ばれる『雷の司』の身体を、6つの雷の塊が包む。
そして、それは地上にいる種の軍勢の中心部へと打ち込まれ、
大地に六亡星の亀裂を生むほどの大爆発を引き起こした。
――それは、かのデンリュウが使っていた、電気タイプの必殺技。
このサンダーは厳しい修行の末に、
しかしもともと雷を操る才に長けていたからこそ、
この1年と言う短すぎる時間でその技を体得する事が出来たのだ。
文字通り体得――実際にデンリュウにその技をぶち込んでもらったり、本当に苦労した。
「バ、馬鹿な…地面タイプの…特性を無視して…」
「残念だったな。『極み』を越えた技には、タイプ相性なんて基礎中の基礎は関係無いんだよ」
救助隊本部周辺を守っているのは、このサンダーとそこに居るファイヤーだけである。
たった2匹しかいないにも拘らず―――
「俺の目が黒いうちは誰にも此処を突破させんッ!」
「らいのし、悪いまた抜かれた。そっち頼む」
「ファイヤー! テメーやる気あんのかァーーーーッ!?」
未だ誰にも、救助隊本部への侵入は許されていなかった―――!
………
形勢は、五分に見えた。
救助隊組織と神々の連合軍は種の圧倒的な軍勢を押し返し、
苦戦こそ強いられたが、何処の戦いに於いても全て勝利を飾っていた。
ルギアやディアルガ、パルキア、そして三獣神に古代遺跡の守護者たち。
そして、ミュウの遺志を継いだ者達。
彼らが力を合わせた時、どんな強大な相手にも負けない力が生まれていた――
だから、例え苦しくても、負けることなど誰も想像しない。
デンリュウでさえ、多少の危機感は持っていたが、
己の力を少しばかり過信していたと言わざるを得ない。
―――12月某日。
デンリュウ不在の救助隊本部に、一通の文書が届く。
それは、各地区に於ける戦況を簡易に記したレポート。
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/古代遺跡
am10:23
古代遺跡周辺にて、ディアルガとパルキアが合流。
そこに居合わせた種の軍勢相手に戦う新米救助隊たちに加勢し、
形勢は一瞬で救助隊サイドが優勢となる。
am10:38
種に増援が合流、戦闘は激化。
am10:36
ディアルガの力により、時間に歪みが発生。
種の軍勢の多くが時空の狭間に投げ出され、消息不明に。
am11:00
ディアルガ、パルキア共に消滅。
救助隊サイドは全軍撤退、負傷者多し。
デ ィ ア ル ガ 、 パ ル キ ア 共 に 消 滅 。
原 因 不 明 。
種 の 軍 勢 の 兵 器 に 因 る 可 能 性 は あ る が 、
一 切 の 情 報 無 し 。
警 戒 度 第 一 級 厳 戒 令 の 発 令 を 求 む
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そのレポートがデンリュウに届く事が在ったら、
この戦いは、本当に歴史の裏に葬る事が出来たかもしれない………。
つづく
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