――ボルテッカー、被弾。
衝撃、電圧計測。
総合値より、破壊力計測。



データを数値化――『280』。
参照データ取得、『サイコブースト:200』。




耐久値限界突破
損傷部拡大回避のため、両腕を切断―――



「うがっがっがああああああああッ!!!」






―――ズガガアアアアアァァァァァンッ!!!






デオキシスが奇妙な絶叫をしながら吹き飛ぶ。
その先の民家が2〜3件、ダメになった。
最初は壁に穴があいた程度かと思われたが、
次の瞬間には激しい音と煙を伴って屋根が沈んだ。
また修理に駆り出されるのかと、ピカチュウはため息をついた。


「……わざと喰らったわね、今の。
 まさかコレでお終いなんて情けない事は、流石に無いわよね?」

「見てくるか?」

「その必要は無いわ。…波導が、消えてない」


アブソルが、自然と隣に並ぶ。
ピカチュウがわざわざ屋根の上に立ちたがるので、
隣を補佐するアブソルとしては毎回屋根に飛び乗るのが少し面倒だった。


「…それにしても、意外とやるのねアンタ」

「あぁ…慣れて――…いるからな」


アブソルのピカチュウとの連携は、非常に巧かった。
とても初めてとは思えない――いや、本当に初めてでは無いかもしれない。

なぜなら今のピカチュウの戦い方はまるで、あのデンリュウと同じなのだから。
流石は共に修行しただけはある。
その立ち回りや、攻撃のタイミングなど、全てがアブソルのイメージどおりだった。


「それでも、私はデンリュウ様一筋だがな」

「………何の話よ」











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迷宮救助録 #35
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「く、くくけけけ…はぁー、はぁー…なるほど…サーナイトのヤツが、警戒するワケだ…」



煙の中、瓦礫の中にすっぽり収まった状態で、デオキシスが呟いた。

口調が紳士ではない。
まるで彼の中で、凶暴な人格が目覚めたような――



そう。
目覚めたのだ。
ラティアスが警戒していた『最も凶暴』なデオキシスが、
砕け散った両腕の再生と同時に目覚めてしまったのだ。



「【ケイオスフォルム】…ッ」



ケイオス――カオス、意味する処は【混沌】。
デオキシスの身体が、右上半身はアタックフォルム、左上半身はディフェンスフォルム、
そして下半身はスピードフォルムを形成する。

同時に3つの形状を、精密にコントロールする。
サーナイトから受け取った力により、ある能力にだけ特化したフォルムを、
全て同時に引き出せるようになった――それが、【ケイオスフォルム】だ。

このフォルムを使うと言う事は、つまり全力で相手を仕留めに掛かると言う事である。



「先ずは――災いを狩る者、お前だッ!」




爆発――ダメになった民家が爆発し、立ち込める煙がはじける。
その中心から、民家の破片が煙の帯を引いて飛び出す中、
それに紛れて赤い物体が真っ直ぐ、屋根の上に立つアブソルに向かって跳躍した。



「シいいぃぃぃぃねえええええええええええッッ!!」




「―――来たわッ」

「解ってる!【かまいたち】ッ!」


ピカチュウが叫ぶのにあわせ、
真っ直ぐこちらを目指す赤い物体に向けてアブソルはかまいたちを放った。
赤い物体はそれをかわそうとはせず、真っ直ぐ向かってくる。

――直撃!
しかしデオキシスはまるで風でも切るかのようにスピードを落とさない!
左半身、盾のような形状のデオキシスの左半身が、本体を守っていた!


「――チッ、何なんだアイツ…ッ」

「あたくしが止めてやりますわッ!【ボルテッカー】ァァーーッ!!」



「パワー比べか、後悔させてやるッ」



デオキシスが加速する。
ピカチュウは電気をまとい、デオキシスに向けてミサイルのように飛び出した。

【ボルテッカー】が発動する――後は、
この状態のピカチュウが相手に渾身の体当たりを叩き込むだけ。

デオキシスは左腕を引き、今度は右腕を突き出す。
空気抵抗が最小限になり、スピードはさらに加速した。
槍のように先端を尖らせた、まさに攻撃のための右腕に、波導が収束する。




どちらも、一撃にかける大技だ。






「勝てッ!ピカチュウーーーーーッ!!」


「はぁぁぁぁああああああああああああッッ!!!!」






「ぬぅぅぅぅあああああああああああッッ!!!!」





























次に、音









その差がハッキリと感じられた直後、
アブソルは衝撃波に耐え切れず、建物の屋根ごと吹き飛ばされた。
屋根瓦が、道端の花壇が、ありとあらゆるものが、
津波に流されるかのように吹き飛んでいく。



「――っ、なんて威力だ…ッうわッ!?」


衝撃に吹き飛ばされた看板が、まだ衝撃波に巻き込まれているアブソルを襲う。
避けられない、空中で身体を捻る事も、この強風の中では不可能だ。
まさかこんな事で――アブソルの脳裏に最悪の光景が過ぎった。


鋭利な看板の角がアブソルの身体を貫くか、貫かないかの瞬間、
アブソルの身体は何かに引っ張られるように地面に叩きつけられた。
いや、実際に引っ張られていた。
衝撃で咳き込みながらも、顔を上げたアブソルは、そこにラティオスの姿を見つけた。


「ふふふ…俺も役に立つだろう」


ニヤリ、と口の端を持ち上げて、ラティオスは自信たっぷりに言った。


「…………忘れた頃に、な…」


アブソルもまたニヤっと笑い、皮肉を返す。
ラティオスは一瞬間を空け、
そしてアブソルの言葉の真意に気付いてガクっと肩を落とした。

「…俺は、災害か何かか?」
「災害よりは役に立つ」
「……素直に喜べないのは何故だろう」

それはお前のお頭が弱いからだ――とは、流石のアブソルも口に出さなかった。








………………








「うぐっ…ごほごほッ、げふっ…」




波導が、身体を貫いた。
穴こそ空かなかったが、内臓がいくつかやられたかもしれない――
今度は屋根の上ではなく、瓦礫の山の上に、ピカチュウは前のめりに倒れこんだ。

その状態でデオキシスの姿を探してみたが、
目の前に動かなくなった【それ】の右腕が落ちているのを見つけたときは苦笑するしかなかった。
どうやら無理な変身状態であった彼は、先ほどの衝突でバラバラに砕け散ったらしい。


「…は、ふふふ……バケモノ…め…、……って…あたしも、同じか…」


それは再生能力ではなく、この途轍もない威力の技を放ったデオキシスへ向けられた言葉。
そんなバケモノと正面からぶつかって、
見事に打ち砕いた自分はもっとバケモノなのだと再び苦笑する。

咳き込むたびに血が出る。
このままなら簡単に失血死できるなと、出来るだけ咳き込むのを止めて仰向けになった。
喉に血が詰まるかとも思ったが、どうやら出血も落ち着いたらしい、この体勢は楽だった。


煙の隙間から、青空が見えた。
アーティのような、青が。





…。


瞼が、重い。






「―――アーティ…」








……

…………





「サーナイト、デオキシスが死んじまったぞ?」
「………」

ヘラクロスの問いに、サーナイトは答えない。
今、町から離れた木の上で町の様子を伺っているのは、ヘラクロス。
そして、その隣にサーナイトの【分身】。

「俺が出てやっても構わないぜ?」

双眼鏡を下ろし、枝から飛び降りようとするヘラクロス。
サーナイトは漸く口を開き、彼を止めた。


「その必要は無い」


「なんだ、いい加減駒はねぇってのに」
「いいから、黙って見ていろ。あと数分でいい、面白いものが見れる」
「…?」

サーナイトは自慢の超能力で、目を閉じたまま町を見ている。
ヘラクロスは、渋々双眼鏡を持ち上げ、町のほうを見た。
立ち込めていた煙が薄れている以外、特に目立った変化は無い。
だが、サーナイトの勘の良さは知っているので、そのまま観察を続けることにした。


「…そうか、そう来るか……くく、くくくくくくく…」


サーナイトが妙な事を呟くので、横目でその表情を伺い、そしてゾッとした。


あぁ、そうか。
やっぱりそうなんだ。

こいつは、サーナイトなんかじゃない。
サーナイトのカタチをした、何かだ。



ヘラクロスは、それを確信せざるを得なかった。
…今更、だが。






そしてサーナイトの予言は的中し、




「さぁ、如何出る!お前らの次の一手は何だ!?」







デオキシスが、再びその姿を現した―――!













つづく


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