――迷宮冒険録 第九十三話




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    迷宮冒険録 〜エピローグ〜
      『救助隊、その後』
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「やっぱり、此処にいた」

全て見透かしたかのようなその一言に、黒髪の男は振り返った。
そこは、かつてサーナイトが暴走したことによって滅んだ、ネイティオの故郷。

沢山の、倒木の破片で作ったような簡素な墓の一つ一つに、
ついさっきまで咲いていたかのような、小さな花が供えられていた。
誰かが、ほんの数分前に供えたものに違いない――その誰かは、目の前に居た。

「3匹の神と、ディアルガ、パルキア。助けたの、―――あなた、だよね」

呼称に、一瞬躊躇した。
それは、少女が既に見知った『彼』の姿ではなく、
恐らくは生前がそうであったのだろう、人間の姿であったのだから。
尤も、それは彼に声をかけた少女もまた同じであったが。

ただ、少女にとって、神々が助かった事よりも重視すべき事があった。
それを、語気を強めて、問い質すように言う。


「……あのニドキング使いの男も、助けた、―――そうだよね?」

「ケッ、だったら如何したよ。今の俺は、もうヒトでもポケモンでも無い。
 世界の理に縛られる必要が無い俺が何処で何をしようと、勝手だろ」

「―――だよね。じゃあ一つ聞くけど、ワタシの『儀式』はどうなるの。台無しってワケ?」

「割と簡単なもんだ、記憶操作なんて」


男の返答は、少女の問いに対する答えとしては全く噛み合ってはいなかったが、
その一言が含む意味を察した少女は、ほっと胸を撫で下ろした。

無駄ではなかった。台無しにはなっていなかった。
その『人間である少女』の存在を知る者は、これで『人間の世界』から完全に居なくなった。
世界の駒から外れた。死んでも居ないし生きても居ない、居るけど居ない、無い存在。
少女は、そんな虚数のような存在と化したのだ―――世界的に見て。

普通は、誰も知らない存在など在り得ないから、そんな事までは考えないだろう。
此処に居る少女は、その『ありえない存在』になったのだ。

だから、此処に居る事が許される。
既に死んだのに、生きて此処に居ても、世界はそれを咎めない。

そして、少女の前に立つ男もまた、虚数であった。
世界を乱すのが乱数であれば、彼の存在はまさに文字通りの『虚数』。
在る、のに、無い存在だから、世界の中で自由に動ける。
世界を乱すことが出来ないが、何をしても世界に咎められない矛盾の存在。

ただ、男もまた、虚数になるための儀式を行ったのは間違いない。
存在を知る者を殺すのではなく、記憶を消去する形で。

たった一人の家族である妹から、自分の記憶を消し去ってしまう事が
どれほど苦痛であったのかは、この男にしかわからないことであるが。


少女―――ユハビィは、男に向かって歩き出し―――男の隣にすれ違う形で立ち止まり、
その場にしゃがみ込んで―――ちょうどそこにある墓に、今し方摘んで来た花を、添えた。

そして手を合わせ、1、2、3秒、黙祷して、そのままの姿勢で口を開く。

「ホント、よく巻き込まれるよね。可哀想な人」
「可哀想とか言うか。そう来たかコノヤロウ」

口だけで苦笑いを浮かべた男は、ユハビィの後頭部に目を落としてツッコミを入れる。
本当ならチョップの一発や二発くらいは入れたいところであったが、
先ほどから遠くに佇んでいる九尾の妖狐が、物凄い形相でこちらを見ているので、
それはまことに残念ながら断念せざるを得なかった。
代わりに振り上げた手は、自分の後頭部を、痒くも無かったのに掻くフリをさせられた。

「いいの?」
「何が」
「サーナイトとミュウツーに会っていかなくて」
「いいよ。俺が出て行ったら、あいつら甘えるからな」
「そう」

廃村を囲む森林の奥から、木の実を抱えたアーボとチャーレムが戻ってきた。
キリがよくなったので、ユハビィはすっと立ち上がると、
男に顔を向ける事無く、待ち惚けているキュウコンの許へ歩いていく。

ふと、立ち止まって一言。


「『次』は、ちゃんと頼ってもいいのかな?」


「『次』が無い事を祈りたい限りだ」


男は溜息混じりに、そう呟き返して、それっきり喋らない。
ユハビィは、満足げに「そうだね」と呟き、キュウコンと共に去っていった。

ユハビィの気配が完全に感じ取れなくなってから、男―――Dは呟く。


「……さて、次は何処に行こうかね」
「何処に行くにしても、アタシたちはついていくワヨ」
「そうだぜ、アニキ!」


イジワルズとして名を馳せた心強い仲間が共に居る。
Dにとって、それで十分であったのかも知れない。

今はまだ、これが新たな始まりなのか、束の間の幕間なのか解らない。
解らないから、適当に、何処かへ行ってみよう。
そんな、当ての無い放浪を、これから何日、
何年、下手すれば一生、続けるのだろうか―――でも、それすらもいいかも知れない。

会わない、と強い意思を示してはみたものの、
サーナイトとミュウツーの事は、少々気がかりだった。

が、Dはすぐにそれが自分自身の甘えで在る事に気付き、
思い切り頭を左右に振って、両手で頬を叩き、一喝する。




『その剣と、仮面と、輝石を貴方に託します。ミュウの選んだ御子である、貴方に』




ミュウの意思を継いで行動しなくてはならなくなり、
人間界でギンガ団の行った過ちを『修正』し、
一通りの任務を終えてやっと自由になったかと思われたその矢先に、
突如、現れたオマルお化け―――クレセリアは、
そんな事をのたまって、剣と石と仮面を押し付けて去っていった。


それらのアイテムには、妙な力の残渣を感じこそすれ、
特に何かしらの意味があるようには感じられなかったのだが、
持っていろと言われた以上、持っているしかないのだろう。
それが、ミュウと対を成すクレセリアの言であるのならば尚更に。




―――人間・ユハビィを知る者は、『人間界には』もう居ない。
人間界だけでいい。初めにヒトとして人間界に降臨した駒なのだから、
その存在を虚数にするには、人間界から存在を抽出するだけでいい。

人間・Dを知る者も、居ない。だから、彼らは虚数たりえるのだ。
虚数だから世界を乱せない。虚数だから、自由に動ける。
ミュウに選ばれて生き返らされたのだから、クレセリアにも選ばれる。

Dは、時を超え、死を超え、存在を失い、そして秩序となった。
秩序とは、そもそも生き物に与えるべき階級ではない。
つまりDは、生き物と言う脆弱なカテゴリすら、超えてしまったのだ。

望む、望まぬに、拘わらず。


「全然うれしくねぇよ馬鹿! 俺の平凡を返せぇぇーーーっ!!」

「天下の大泥棒が平凡とか言っちゃったわよ、アタマ大丈夫なのかしら?」
「シャー……まぁ、アニキが唐突に壊れるのは何時もの事だから……」





……
…………




「ゆっはっびぃーーーーーーっ!!!」

「きゃあああああああっ!! 寄るな! 触るなっ! 抱きつくなぁああっ!!」


ワタシの行きたい場所は、もう全部行った。
やらなきゃいけないことも、多分、全部やった。
堂々と胸を張ってこの世界に帰ってこれる―――そう、勇んで。

そして帰ってきたワタシに、感極まったFLBのリザードンが
物凄い力で飛び掛ってくるのを、今は人間の姿を借るワタシは紙一重で避けられなかった。

圧死するかと思った。
何せ、リザードン、物凄いパワーだ。
コンクリートの柱くらいなら、ハグで潰せるんじゃなかろうか。
もしワタシが波導使いで、波導を防御に回していなかったら、
この感動的な再会の場は、一瞬で血染めの惨劇と化したことだろう。


だが、この時点でまだワタシの認識は甘かった。



「―――げっ、ちょ、やめ―――」




リザードンの肩の向こうから、これまでワタシが関わってきた仲間たちが、
一斉に飛び掛ってくるのが、一瞬見えた―――いや、これは死ぬ。圧死する。


もうダメだ―――目を閉じた瞬間、頭の上から声が聞こえた。




「大丈夫か?」
「―――っ………アレ、フーディン?」


どうやら、ワタシはFLBのフーディンのテレポートによって、
圧死寸前のあの空間から救出されていたらしい。
流石フーディン、ナイス。GJ。
頬にキスくらいならしてあげてもいいくらいの快挙だ。しないけど。

サイコキネシスで空中に捕まったワタシの後方で、
ワタシの代わりにリザードンが大量のポケモンたちの下敷きになって、死んだ。

いや、死んでない。ごめん、ノリで喋った。

ふわりと地面に降ろされたワタシの横から、アーティが笑顔で出てきて言う。


「お帰り、ユハビィ」

「うん―――ただいま、アーティ」


やっと、帰ってきたんだなぁ、と、感慨に耽りたくなった瞬間だった。





………




4大王家、全滅。死傷者数不明。
救助隊連盟、負傷者二百四十。

他、被害者数不明。


被害の規模は、あまりに甚大だった。
ワタシが人間界に行っている間にそんな大きな戦いがあったなんて、知らなかった。
キュウコンは、多分、ワタシに余計な気を回させないために、敢えて黙っていたのだろう。
幸いだったのは、ワタシと面識のある者が全員生還したと言う事だけだった。

ギンガ団総帥にしてホウオウと共にいたアカギの手で、
ディアルガ、パルキアから生成された真紅の鎖は、
ギンガ団本社ビルで、『アルセウス』のようなポケモンを召喚した。

そしてホウオウアカギは降臨したアルセウスを取り込み、
その力を我が物として、ワタシとキュウコンに襲い掛かった。
危なかった。キュウコンに関しては、
手当てがあと数刻遅れたら命が保障できなかったほどに。
尤も、それはワタシも同じであったらしいのだけれど(医師から聞いた話だ)。

ディアルガとパルキアは、今は何処にいるのだろうか。
解っているのは、あのムカつく笑い方をする『あの男』が、
エムリットたち同様に、究極神をも救ったと言う事だけだ。

何故解るのか? それは解るとも。ピンポイントで。
ギンガ団の研究所から飛び去るディアルガとパルキア、アグノム、ユクシー、
そして、アーボとチャーレムを連れた無愛想な男の目撃情報があったからだ。
一旦ポケモン世界に帰ったフリーザーが、
またワタシと合流するために人間界に戻った際、
ワタシの居場所を探している間に聞いた話らしい。

それを聞いたのは、アディスと言う名のリオルが、
アルセウス化したホウオウアカギを倒した後の事だ。

アディスがポケモン世界に帰るから、一緒に帰ろうとしたその時、
ちょうどフリーザーはやってきた。少し、遅かったような、
でも無駄な怪我をせずに済んだだけ、ある意味では良かったような。

ワタシはアディスを先に帰し、フリーザーから事の次第を聞いて、
後からやってきたコウキの戦いを、フリーザーの背中の上から傍観する事にした。

アカギは強かったが、コウキの操るエムリットは、もっと強かったとだけ言っておく。
ギンガ団のサターンと言う男が、コウキに託した力、それが恐らく、アレなのだろう。


ともあれ、あの男―――元・ゲンガーの話に戻すが、
彼はやはり死んでいなかったのか、ともすれば、
それは何者かの意思によって生かされたと言うべきか。
何者か―――ミュウ、或いは、それに類する何か。

彼は、その何かによって、また何らかの使命を与えられたのだろう。
だからワタシは、「よく巻き込まれるよね」と、そう言ってやったのだ。

多分、彼はまた、新しく何かを託されたのかも知れない。
最後の戦いの、あの波導の光の中から飛び出した、見知らぬ透明なポケモンの姿。
それが真っ直ぐ彼の許に向かっていた事を、ワタシは知っている。

本当、よく巻き込まれるね。
サーナイトとミュウツーに会っていけばいいのに。
きっと、二人とも喜ぶと思うのに。素直じゃないのは損なものだ。






そして、種と言う未知の存在と、それを蝕んでいたプラチナと言う組織の話。

これは、聞かされてもまだ、理解できなかった。理解に苦しんだ。
そんな組織があったなんて、ましてや、
エラルドやトップアイドルのカイリューとイワークがその組織に組していたなんて。

賢者であるキュウコンでさえ知らなかった組織だ。
ネイティオなら案外何か知っていたかも知れないが、
そういえばこの戦いで、彼の姿は一度も見ていない。
まぁ、年だし、戦場に居られても困るのだけれど。


今、既にプラチナと言う組織は無く、また種は再生の時を迎えている。
エラルドとカイリュー、イワークも一旦種に戻り、さらに救助隊連盟の助力を得て、
『総帥』なる何者かを中心に、新たな一歩を踏み出そうとしている。

『総帥』はデンリュウが推薦したポケモンらしい。
種がこれからも秘密結社であり続けるためにその正体は公にはなっていないが、
デンリュウが推薦するほどなのだからかなりのやり手なのだろう。

それに、フリードと言う名のガブリアスが世界に愛の種を如何のとか喧しく叫んでいたから、
まぁきっとあの組織が悪い方向へ進む事はないだろう。
あのガブリアス、FLBの誰かさんと一緒で、いい意味で馬鹿だ。
愚直とも言える―――だから、信頼に値する。一緒に居たいとは思わないが。




いい事と悪い事が沢山あって、それが合わさって、0に戻ったような気がした、
そんな事件だった―――ワタシは、そう思っている。

散っていった兵士たち、王家の関係者、その数は計り知れない。
でも、彼らのために何をするのが正解なのか、そんな問答に興味も無い。
答えなんて、いくつもある。無くは、ないのだ。いくつもあって、それぞれに意味があって。

価値観が違うから。
大切なものが違うから。
だからぶつかって、少しずつでいい、分かり合えるなら、それでもいい。
ぶつかって、そして、『世界』は成長する。同じ過ちを犯さぬために、成長できる。

ワタシは、その解答に至った。実に超界者的な解答だと、キュウコンは言った。
貴方は如何なの? と、問い返したら、見事にはぐらかされたけど。


「今回でまた一つ、成長した。あといくつ成長したら、『完全なる世界』だと思う?」
「あと3つだな」
「……適当言ったでしょ、キューちゃん……」
「適当だよ。いいじゃないか、それでも」


何を以って完全なる世界なのか。
それもまた、それぞれ多様な答えがあるのだろう。
答えが必要ない問いはあるかも知れないけど、答えが無いものなんて無いんだ。


「隣に居る誰かと、一緒に満足できる事が、『生きること』だ―――ネイティオ老師はそう言っていたよ。言葉の通りの意味かも知れないし、もしかしたらもっとずっと、僕なんかには想像も出来ないほど深い意味があるのかも知れないけどね」

「キューちゃんはこうしてると満足?」
「満足だよ。不満なんてあるものか」
「そう……他のみんなは如何なのかな」
「さぁね。救助活動の折を見て、聞いてみたらどうだい?」


ワタシは帰ってきた。
山積みになったアーティの手紙、もとい冒険の記録は、
追々ゆっくり読むことにしよう―――新しいポケモンズの一員、ラプラスのことも気になるし。




今は、そう。
もう一度だけ、言わせて。



ただいま、と。










「さて置き、ちょっといいかなキューちゃん」

「奇遇だな。僕も少し気になる事があったんだ」



アーティからの手紙が大量に積まれていたため、
それを一旦家の中に運び込む作業の最中、
救助隊支部から派遣されたペリッパーが、新しい依頼を運んできた。

………のだが。

その依頼を見て、ワタシは血の気が引くのを感じる。
恐怖と、迫り来る死の戦慄を振り払うように、ワタシはキュウコンに問う。



「何、今日のこの依頼」

「デンリュウを捕まえろ、か。☆ランクミッションのようだな」





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「デンリュウ様を捕まえて」 ランク☆

場所:適時連絡
報酬:望む限り、何でも。

デンリュウ様が逃げたので、その確保作戦のために貴殿らの力をお借りしたい。
本日正午、各地の救助隊連盟支部にて詳細を説明する。

命の保障は出来かねるので、参加不参加は慎重に判断して欲しい。
尚、この依頼は全ての救助隊宛に送られている。

いい返事を期待している。


救助連盟総司令官補佐アブソル

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新しい依頼の匂い(と、アーティは言っていたが一体どんな匂いだろう)を嗅ぎ付けたアーティが、腕が鳴るぜとか言いながら救助基地を飛び出していくのを、ワタシは虚ろな目で見送るのだった。


もう少しだけ、人間界とのお別れを惜しんでいた方が、
よかったのかも知れないと思ったのは秘密だ。





………………





事の発端は実に単純なものだが、所詮これも余話である。


「あー、なんだか疲れちゃいましたねぇ……」
「お疲れ様ですデンリュウ様」
「そうだアブソルちゃん、一つだけお願いしてもいいかしら?」
「何ですか?」
「私もちょっと冒険家とか」
「ダメです」
「………まだ最後まで言っ」
「ダメです」


アブソルの鋼鉄の姿勢に、山積みになった書類の上に思い切り頭を擡げるデンリュウ。

今回の一件で、デンリュウは救助隊連盟を率いる総司令官として(尤も最高責任者なので当たり前だが)動いていたので、実はそんなに戦闘には参加していないのである。
フーディンから呼び出されたりしたこともあったが、それも結局はフーディンの読み違えから生じたミスであり、それ故にあらゆる戦況を聞いて作戦を立てるサーナイトとミュウツーの補佐としてしか、活躍らしい活躍はしていなかったのだ。

デンリュウはその存在だけで相手を牽制する居飛車のようなものなのだが、
デンリュウ自身は、もっと敵陣の中で暴れてみたいと言うのもあったらしい。
所謂欲求不満と言うやつだ。


「地下拷問室の器具、たまには使わないとすぐダメになっちゃうでしょう?」
「ダメになって結構です。アレらは二度と外に出すべきではない」
「そういえば私最近ちょっと運動不足で」
「デンリュウ様はまだ少し痩せすぎなくらいです」
「使ってないから電気が溜まっちゃって」
「じゃあその書類を片付けながら蓄電器にでも充電しておいて下さい。光熱費節約です」
「目が少し疲れました」
「はいどうぞ、ブルーベリーです」
「眠いです」
「はい、フリ○クスーパーハードミント味です」


まさに、微塵の死角も無い、完璧な補佐を演じるアブソル。
デンリュウは思い切り不満げな表情を浮かべながら、ふと何かを思い立ったかのように
「あ」と言ってアブソルの背後――総司令室の入り口を指差した。

アブソルが何かと思って、振り返った―――次の瞬間。


―――ガシャァァァァアアアンッ!!


「でっ、デンリュウ様ーーーーーっ!!!?」


デンリュウは、アブソルの一瞬の隙を突き、
背後の―――遠くの大自然が一望できる全面ガラス張りの壁を突き破り、逃亡した。

因みに、此処は救助隊総本部の、最上階。地上約40数メートル。


「デンリュウ様ぁあああーーーっ!! 何やってんですかアンタはーーーー!!」

「うふふふふっ! 私は自由ですわ! 今なら空も飛べ―――あ、やっぱ無理。えいっ!!」


ズドン! と大地を揺るがさんばかりに着地したデンリュウ。
流石と言うべきか、この自殺レベルの高さの落下にも動じない辺り、
最凶の名は伊達じゃないと言うべきなのか、どうなのか。


「――こちらアブソル。デンリュウ様が逃亡した。すぐに確保して欲しい」


冷静沈着なアブソルは、すぐに応援を要請して、デンリュウ包囲網を形成する。
多分、少し派手に追い回して捕まえたほうが、
デンリュウ自身も満足するだろうとアブソルは読んでいた。
だから、事件を大事にする。デンリュウ逃亡のニュースをばら撒き、
救助依頼として全ての救助隊に通告し、協力できる者の手は全て借りる。


「全く、お遊びは今回だけですよ、デンリュウ様」


アブソルはパタンと無線機を閉じ、
突き破られて無残な姿を晒すガラスの壁の向こうの景色を眺めるのだった。



……その後、逃げ回るデンリュウを掴まえるために全ての救助隊、神々が加わり、
ある意味例の戦争よりも甚大な被害が出たとか如何とか。













迷宮踏破録へ続く





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