――迷宮冒険録 第八十九話







「ふ……ふふふ。流石だよ。だからこそ、僕が報われる……」




それは、絆と言う力。

ただ守りたいだけじゃ手に入らない。
それぞれの想いが通じて、初めて生まれる力。




俺はリオル




絆を力に変える事が出来る、稀有なポケモン





「……俺は、何度も奇跡に救われた。他の俺と比べて、ずっと恵まれていた」





進化の光は、古い肉体を捨て、新たな力を宿す器を手に入れる儀式



「だが―――」


「言うな。お前が僕より優れていた事を、たった今、お前自身が証明したんだ。
 僕が手に入れられなかったものを、僕が見つけられなかったものを―――見つけたのだから」



明示しておこう。
アディスと言う名のリオルが、ルカリオへとその姿を変えた事例は、全ての世界に於いて存在しない。
いかに狂った世界と言えど、アディスが自らの器を破る事など、在りはしない。

だが、その事実は過去形となる。



「進化して、どれだけの力を発揮できるのか―――
 ティニを斬ってでもこの世界に留まる覚悟があるのか!
 僕を満足させる答えを見せてみろ、アディスッ!!」





俺は、アディス





「言われなくても、俺はもう迷わないッ!!」






ルカリオの、アディスだッ!







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      迷宮冒険録 〜終章〜
    『仮面の悪夢と運命の風4』
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「ッゼェェェエアアアアアアアアッ!!」



―――ギャリィイィイィイイインッ!!



「ぐぅッ―――っォああァッ!」



―――ヒュッ! ズドァァアアアアンッ!!



俺の大剣の薙ぎ払いを槍の柄で受け流したナイトメアは、
即座にがら空きになった俺の腹目掛けて槍を突き出す。
リオルのままだったら今ので終わりだっただろう、だがルカリオとなった俺には、
その攻撃に、振り抜いたばかりの剣で対応する事が出来る、あらゆる動作が間に合う!
槍から受けた凄まじい衝撃に対してイチイチ身体が硬直しない!
剣を振り抜いたその重みでバランスを失わない!


「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

「――波導弾かッ」


そして、波導が今まで以上に湧き上がってくる!
ミカルゲが俺に分け与えてくれたそれとは違う、
純粋な俺自身の波導が俺のパワーを極限まで高めてくれる!

―――波導とは心の強さ、波導弾とは魂の強さ!

絆のペンダントがみんなの声を、想いを、絆を届けてくれる、力をくれる!
だから俺の波導に限界なんか存在しない!


―――強くなるとは、これほどまでに楽しいものなのか!


「楽しいなコノヤロウッ!」

「全くだッ! 叶うのなら、一生こうしていたいッ!!」



両手両足、全身、大地、空、海、宇宙、
あらゆる場所からかき集めた波導を凝縮してこの大剣に乗せ、
そして剣を薙ぐその一撃を想いの力で爆発させる!
剣を取り巻く蒼い波導が巨大化し、ナイトメアに回避や防御の隙など一切与えない!

それが、俺の波導弾のカタチ。
運命や己の道を切り開く意思の剣。
たとえ目の前に居るのがかつて守りたかった者の姿をしていても、
それはもう俺を迷わせるモノには成り得ない!

何故なら、ティニは『此処に居る』と言った!
何処か遠い世界で、俺の勝利を願ってくれた!
だからもう迷わないでこの剣を振るう事が出来る!

この剣は切り開くモノ―――己の道を、その運命さえも!


「いい目だ―――その覚悟が見たかった!」


だが、ナイトメアも負けては居ない。
今まで以上に進化の輝石と、今は槍を象る骨肉の剣の力を引き出し、
俺とのパワーバランスを崩しに掛かってくる!

そう、その槍は貫くモノ―――己の意思を、その魂を!


「負けない―――負けないぞ! 勝つのは僕だッ!」
「違うなッ! 勝つのは俺だァアアアアアアアアアッ!!」


増幅した波導の一撃を大剣に乗せ、振り下ろす。
それは当たればこの星でさえも粉々に打ち砕きそうな迫力でナイトメアに襲い掛かる。

防御も回避も無意味である事を悟ったナイトメアは、槍を正面に突き出して赤い波導を増幅させた。
その槍は俺の大剣と同様に、しかして対照的な赤い波導を纏い、巨大な槍の形を作りあげている。

一瞬、間があった。
その間に、ポツリとナイトメアが呟く。


「……ルカリオに進化しただけはある。大した波導だ……だけど、
 『なりたて』の君と超界者たる僕とでは決定的な差がある」

「…っ………?」



ナイトメアは波導を纏う槍を抱き寄せるように構え、仮面の下で目を閉じた。



「波導は生命エネルギーだ。魂の持つ力を、出来るだけ純粋な形で引き出している……もしも」



まだ波導の扱いが未熟なアディスは、身に余る波導を暴走させるような形で振り回すことしか出来ない。
しかし、超界者としての高みに立ったナイトメアには、波導は手足の如く使えるモノである。



「もしも、もっと純粋な――魂そのものを力に変えたとなれば、どうなると思う?」



その原理も、性質も全て身体で覚えている。
だから、ナイトメアは波導使いに許された禁断の奥義など、いつでも使う事が出来た。

魂をそのまま力に変える、禁断の波導。




――かつての勇者ルカリオが、暴走するサーナイトと渡り合うことが出来た、その真相――




それは、通常の波導よりも研ぎ澄まされた





「正真正銘、これで最期だ。僕の魂を直接切り出したこの覚悟、打ち破ってみせろアディスッ!!」





命―――そのものの力





「上等だ! まとめて切り開いてやらァアアアアアッツ!!!」















つづく 
    


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