――迷宮冒険録 第七十二話







よう、久々だな。何話ぶりだ?
くっくっく、しみったれたお別れや再会なんか知った事か。
帰ってきたからにはやる事はひとォーつ!


「いざ! 新たなる冒険の大地へ!」

「それもいいですが、その前にお使いを頼まれてくれますか?」



右手の人差し指だけを立てて、大空を指差しビシッとポーズを決めた俺の背後で、
変な空飛ぶアヒルみたいなポケモンに横槍を入れられた。
誰だオマエ。……あぁ、そうそう俺を此処まで連れてきた奴か。
名を名乗るが良い、それくらいは許可しよう。


「……このアディスを呼び戻したの、失敗かしら……」

「何をう、失礼な。礼は言わんぞコノヤロウ」

「あ、アディス、少しくらいは敬ってよ。この方は――」

「いいかミレーユ。男がおいそれと相手にヘーコラしちゃあオシマイだ。
 俺は俺が認めた奴以外に、敬意を表する心算はないね。わっはっは!」

「はぁぁぁ……」
「あっはは、アディス君らしいよ」
「はい、何も変わって無くて一安心です」


ミレーユの溜息に混じってアヒルお化けも思いっきり溜息をついていたが、
俺はさりげなく見なかった事にしてやった。俺ってすげーやさしいだろ?

ところで、フリードとリィフとブラッキーと見知らぬカラカラとフェルエル、
それから凄い波導を内包したワニノコと滅茶苦茶可愛いラプラスが居るが、
これは一体如何いう状況なのだろうか。

タイトルコールの間にでも説明してもらうとしよう。
ううむ懐かしいなぁこの感覚。心が躍るようだ。








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      迷宮冒険録 〜四章〜
     『ミオシティの夢魔1』
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「なるほど、かくかくしかじかで色々あったわけね」
「え? まだ何も説明してないけど…」
「馬鹿! タイトルコールの間に面倒な会話は済ませるのがお約束だろう!
 もういいアレだ! 漫画的に言えば『コマとコマの間で色々ありました』ってのをやれ!」

「あの、アディスさん、やっぱりちょっと変わってませんか……?」
「らしいと言えばらしいけど、拍車が掛かってるねぇ……」

手際の悪いミレーユ他烏合の衆の所為でさっぱり事情が飲み込めないが、
そんな細かい事は気にしなくて良いのだろう、誰からも敵意も感じないし。
きっとアレだ、『昨日の敵は今日の友』って奴だ。
宿敵と書いて“とも”と読むアレに違いない、そう言う事にしておこう。

あ、訂正。
アヒルお化けが敵意丸出しで俺を睨んでます。うっひょう怖い怖い。

「ミカルゲの器、そろそろ話を本題に戻したいのですが」
「そおいッ! クォラ! ちゃんと名前で呼べコノヤロウ!」
「私はアヒルお化けじゃなくて『クレセリア』です。
 ちゃんと様をつけて呼んでくれるまであなたを名前で呼びたくありません」
「じ、上等じゃねぇか、アヒルお化け様…いや、オマル様よォ…!」
「オマ……ッ!!」

「ぷっ……!」

俺のオマル発言に、クールに飲んでいたお茶を噴き出すブラッキー。
ツボだったと言うか、奴も同じ事考えていたのだろうな。
だってコイツ、背中に穴開いてたら如何見てもオマルじゃねぇか。

「アディスとクレセリアさん、犬猿だね……」
「まぁ、こうなるんじゃないかとは思ってたけどね……」
「あぅぅぅ……アディスさん……」






……

…………





タイトルコールの間に済まされなかった此処までの経緯は、
その三点リーダの連発される間に済ませたとして、俺たちはあるお使いを頼まれた。

そのお使いとは、途轍もない難易度を誇る――言うなればSランクミッションである。


「に、人間界に行けだと?」

「はい。もっと正確に言えば人間界はシンオウ地方、ミオシティの船乗りの家です」


その言葉と一緒に、クレセリア(器と呼ばれ続けるのもアレなので、
仕方なく名前で呼んでやる事にした)は金色に輝く羽根を俺に手渡してきた。


「その船乗りの家の長男は、醒める事の無い眠りの世界に堕ちています。
 それは、あなたのよく知る者が原因で引き起こされた現象です」

「まさか、居候がそいつの中に入ってるって事か?」

「はい。彼はあなたよりも先にこの世界へ戻り、その少年の中に身を潜めました」

「何でだよ、もう少し待たせて俺の中に戻ってくればよかったじゃねぇか」

「その原因は、シンオウ地方に行けばわかります。
 あなたは、その羽根を使って少年を目覚めさせるだけで良いのです」

「……この姿でか?」

「はい。見つからないように頑張ってください」


こ、このオマル……サラリとトンでもないこと言いやがって。
俺は人間が大嫌いなんだぞ、それだけでもあんな世界に行きたくは無いのに、
んな危険なミッションやってられるかこのマヌケ!


「あ、そうそう」

「何だコノヤロウ」

「拒否権はありませんから、頼みましたよ?」

「あ? そりゃ如何いう―――」


クレセリアが、紫色の波導を俺と他数名に絡ませた。
何か猛烈に嫌な予感がした俺は、そこからの脱出を試みるがそれよりも早く――











「待てコノヤロウーーーーッ!!! ………って、……え?」



俺は、人間界(だと思う)に飛ばされていた。
オイ、待てコラ、俺帰り方知らないぞ、しかもミオシティって何処だよ!?


「あのアマ……帰ったら殴る……絶対殴るーーーッ」






………………

……





「ナイトメア様、どうかされましたか?」

「いいや、何でもないよ……少し疲れているのかも知れない。
 休ませてもらうから、僕に連絡が入ったらそう伝えておいてくれ」

「畏まりました」


ナイトメアは側近にそういい残して、個室へとテレポートした。
疲れているかどうかは、解らない。
強大すぎる力を手にして、疲れなどとは長い間無縁だったから、
久々に感じた倦怠感が一体何なのか、身体で理解するのには難儀した。
仮面、剣、そして輝石。全てのアイテムを手に入れ、彼は紛れもなく最強になった。
しかし、剣には剣の、輝石には輝石の、所有者を選ぶ強靭な『意思』がある。
それを屈服させるために、持てる全ての力を行使したのだから、
久々に感じる感覚は、疲労そのものなのだろう――そう、頭で理解した。

ベッドに横たわり、全神経を霧散させるように脱力する。
生物を超えた彼に睡眠など必要無いが、このまま眠ってしまおうと彼は考えた。

そう考えてから、念のため、この世界を『観る』。
心から糸を伸ばし、一本一本丁寧に世界に繋げ、
そして見たい場所、探したいものを心で呼びかけ、
その光景を目ではないモノで『観る』。

あのリオルは、やはりこの世界には居なかった。
ナイトメアはそれだけ確認して、
頭の片隅に溜まっていた不安を払拭し、眠りに落ちる。



居るはずが無い。
丁度今、アディスはこの世界に降り立ち、既に人間界へと消えていったのだから。



クレセリアの策謀が、ナイトメアの計画の足元にかすかな火を灯し始めていた――









つづく 
  
  


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