――迷宮冒険録 第二話






――前略、俺こと【リオル】のアディスは食卓に並びそうです。










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      迷宮冒険録 〜序章〜
       『新米冒険家2』
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事の発端は、迷いの森を適当に歩いているうちに偏狭の村に辿り着いたことだ。
…って、適当って認めちまったよ俺…まぁいいか。
その村は外部から訪れるものを捕食する習慣が根強く残っているようで、
俺は現在鍋の中に放り込まれる手前である。

「ってふざけるなーーーッ!!」
「ギャーー!なっ、何をする!生贄の分際で!」
「もっとふざけんな!何だ生贄って!」

身体を縛っていたロープを引きちぎり、俺は鍋を引っ繰り返す。
煮え滾った湯が辺り一面に散布され、蒸気が部屋に立ち込めた。
…アレに突っ込まれるところだったのか、危なかった…

「俺は帰る!森の中を案内しろ!」
「なっ、何を無茶苦茶な―――」

「…案内しろ」

「は、はい…よろこんでッ」

調理係のキノココのカサを掴み、メリメリと握り締めてやると、存外素直に受け入れてくれた。
この村の住民は皆キノココと【キノガッサ】のみで、キノコ村とでも名付けるのがいいだろうか?

調理係を引き連れて厨房を抜け出すと、奪われた荷物を取り返すべく先ずは村長宅に忍び込む。
村長さえ倒せば俺がこの村の支配者になれるはずだ――我ながら何をやっているんでしょうね。
冒険家なのに。


「オラーー!荷物返せーー!」

バガーーンッ!

「ぉおお!?生贄が何故ここに!まさかキノ次郎、裏切ったか!?」
「す、すみません村長ッ、自分はまだ死にたくないのでありますッ」
「キノ次郎何時から軍人に!?」


ドアを蹴破ると、そこには沢山のキノココを侍らせた村長らしいキノコが座っていた。
と言う事は、多分周りのキノコはメスなのだろう…全然区別つかん。

そしてキノ次郎なる元料理長現俺の忠実なる下僕は、ビシッと敬礼しながら俺の横で硬直していた。
ホント、何時から軍人になったんだオマエ。


「むむむむむむ…こうなったら已むを得ん、奴らを呼べ!」
「はい!ただいま!」

「ぬ?」


村長が言うと、周りのキノココが一斉に部屋から出て行く。
そして入れ替わるように――多分奥の部屋で待機していたのだろう、
屈強なキノガッサが二匹も現れた。

「ボス、コイーツデスカー」
「生贄、逃さナーイ」

「が…外人訛り…ッ、こいつら強い!?」

海外から雇ったボディガードってトコか、屈強なキノガッサは身体を揺らしながら寄ってくる。
俺の背後には蹴破ったドアが落ちているだけで、逃げるなら労する事はないが――


「面白い!売られた喧嘩は買うのが俺流だッ!!」


身をかがめ、もともとキノガッサより低い目線をさらに下げる。
キノガッサの特徴はその拳による強烈な一撃。
だが喰らわなければ倒すのは容易だ――何故なら奴らは打たれ弱いからッ



「せりゃあッ!」
「ムゥ!?」


――ガゴォーーーンッ!!


「アベシッ」
「Kッ!?」
「見たか!俺流バイオレンス投擲!」


俺は走り出すと同時に足元に落ちていたドアを投げたのだ。
それも、俺がまったく目を合わせていなかった方に。
まさかこっちに飛んでくるとは思って居なかったKと呼ばれたキノガッサは、
顔面にドアがクリーンヒットしてマット――もとい村長宅の床に沈んだ。先ずは一匹。


「オ、オノレ…ヨクモ――アレ?」


生き残っているキノガッサがKから視線を俺にずらすが、
既に走り出していた俺は見当違いの場所に居る。
そう、背が低い利点を活かし、奴に気づかれる事なくここに入り込むことが出来たのだ。

「G!下だーー!!」

村長が叫ぶ。
なるほど、コイツの名前はGか、さよならG。






「俺流ミレニアム肘鉄ッ!!」



――カキィィィーーーーーーーーンッ!!



「ンNOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOゥッ!!」



――やはり外人だったか、らしい断末魔だったぜ。
崩れ落ちるGに潰されないようにスライディングで股下から脱出した俺は、
股間を押さえて泡を吹きながら地面に倒れたGの最期を見届けた。…死んではいないだろうが。

まだ見ぬ子孫は、死んだかもな。すまねぇ…悲しいけどコレ、喧嘩なのよね。



「ぬぬぬ…」

「はっはっは!さぁどうする?大人しく俺の配下になるか!?」


…あれ?
ナニ言ってるんだ俺?
この村から出てとりあえず森を抜けるんじゃなかったっけ?


「わ、わかった…我々の負けだ…」
「村長!そんな!」
「仕方ない…これ以上の被害を出すわけにはいかんのだ…今は耐えろ…」


あぁほら…どう見ても俺が悪役じゃねぇか…
さっさと荷物取り返してこっから出よう。

「荷物?あぁ、アレか」

村長が指差した先には、ブルーシートの上に並べられた俺の荷物が鑑識にかけられていた。
俺は麻薬の運び屋か何かか?
そんなトコ漁っても何も出てこねぇっつーの。

「返してもらうぞ」

ブルーシートの上で荷物検査していたキノコをどかし、奪い返した。
キノコは思いの他軽く、あっさりどかす事は出来たが――


「あん、乱暴なのね…でもワイルドでス・テ・キ」
「………」


――ゴシャッ


「きっ、キノ吉(♂)ーーーィッ!!」
「我がオカマ道に一点の曇りなし…」

「えぇい鬱陶しい、さっさとイね!」


――ゴス!…ドサッ


あまりにウザかったのでついでに殴り倒してやった。
俺の悪役度数がメキメキ上昇している…このままじゃ主人公の品格が疑われそうだ。
しかし逃げるにしても森を突破する自信は無いな…地図でも無いだろうか。

「くぅ…、まだ我々から搾取する心算か!この悪魔め!」
「えぇい本当に鬱陶しい、地図か案内役のどっちかよこせ」
「地図だと!?まさかこの村に伝わる伝説の宝を狙って…おのれ!どこでその情報を!」
「そっ、村長!?今アンタ口滑らしましたよッ!」
「ハッ!しまった!…こ、この村に宝なぞない!」

伝説の宝……ふふ、ははははは。
前言撤回、俺はこの村を徹底的にしゃぶり尽くしてやる。
冒険家としての最初の功績が未知なる秘境に眠る宝なんて、最高じゃないか。
地図はどこにあるのかもウッカリ口を滑らせてくれるとありがたいんだが…

「そんなものは無いと言ってるだろう!特にそこにある巻物なんか一切関係ないわたわけ!」
「そっ、村長ーーーッ!?」
「ほーぅ、巻物、ねぇ」

村長が俺の後ろを指差すので振り返る。
何時の間にか巻物が置いてあった。
さっきからあったのか?気付かなかったな、
とりあえずあのバカ曰くここに記してあると見ていいだろう。

「勇者は宝の地図を手に入れたーーッ!」

「あぁーー!しっ、しまったぁーー!」

アホばっかりだ、だがこのアディス容赦せん!
巻物を開く。地図が記されていた。どうやらこの村の全景らしい――
中央にバツ印がついているので、多分そこで良いはずだ。
この村長の家とさっきの調理場から見て、
ここに来るまでに通った場所のはずだが、全然気付かなかったな。
というわけで、さっそく出撃じゃーー!








「…ふぅ、巧く行きましたね村長、ナイス茶番」
「茶番言うな、奴に連絡はつけているんだろうな?」
「勿論ですよ。丁度奴が里帰りしていて助かりました」
「ふふふ…侵略者め…お前の暴挙もここまでだ…」




………




「ここか」

俺が辿り着いたのは、一軒の家だった。
家と言うか、どこか道場の様な風格を纏っているが…
とりあえず中に入ってみる事にする。

「誰だ!」
「俺だッ!」
「ナンだ、俺か…」

ドアを勢いよく開けると、案の定中は道場だった。
そしてその中央に、こちらに背を向けた状態で座禅をしているキノガッサが一匹。
よく解らなかったが、多分誰だと叫んだのはアイツだろう。

「………えーっと…お、お邪魔します…?」
「む、貴様何者だ」

誰だと言われたから、反射的に俺だと答えてしまった――だけならまだしも、
それで納得されたら立つ瀬が無い。
仕方ないからもう一度挨拶をしてみたら、今度は向こうも冷静になってくれた。
こちらを振り返って同族のキノコで無い事を認識し、部外者であると感づいたらしい。
声質から女である事は解った、それもかなりクール系だ。
こんなのが軍隊の上官とかだったら、物好きな部下なら張り切ってしまいそうだな。

「失礼な。私は上官などではない」
「それは失礼、ところでこの地図を見てここに来たんだが、宝とか知ってるか?」

キノガッサに地図を見せた。
そいつは地図と俺の顔を交互に見比べ、フンと鼻をならして不敵な笑みを浮かべる。

「そうか、お前が侵入者と言うわけか。村長から連絡を受けているぞ」
「…は?」
「お前を倒す」

ちょぉ待て、何が起こってるんだ?
…まさか、俺…


「ハメられたッ!?」

「今更遅いッ!!」


キノガッサの拳が飛んでくる。
疾い――だがギリギリで回避し、とりあえず道場から退散した。
どうりで話が巧すぎると思ったぜ、こういうことだったかあのボケ村長、策士だな。抜け目無い奴。

と、頬から血が流れている事に気付いた。
かわしたと思ったが、どうやら衝撃波にやられたらしい。
…只者じゃない、少なくとも俺は今まででコイツ以上に強い奴を見た事が無い。


「――へっ、面白ぇ……もう宝なんかどうだっていい!楽しもうぜこの喧嘩ッ!」


「喧嘩だと?ふん、気楽な奴だな――だがその姿勢は嫌いではないッ!」




ビュンッ!!



「うおっとぅ!」

道場から飛び出してくると同時に飛んできた拳を、今度は冷静に回避した。
一瞬だが、あの拳に電撃が込められている事が認識できた。
なるほど、回避しても当たるカラクリはあの電気というわけだ。

「…ほう、もう見切ったか――大した奴だ」

「俺を誰だと思ってる、偉大なる冒険家(予定)のアディスだぜ!」

キノガッサは俺から離れた位置に棒立ちし、感心した素振りを見せていた。
俺を測ったのか?
物好きな奴だな、だがその余裕が命取りになるぜ。

「それなら心配無用だ、私を誰だと思っている」
「存じ得ないな」
「私はフェルエル、孤高の冒険家だ!」

フェルエル――そう名乗ったキノガッサの目は、真っ直ぐ俺を見ている。
迷いも躊躇いも無い、強い意志が感じられた。
なるほどコイツも冒険家か、しかも孤高と来たもんだ。

冒険家も万全を尽くす事は忘れない――救助隊と同じように、チームを組むのが普通だ。
それを、コイツはひとりで冒険家として活動している。
並の強さではないな。
俺も本気でやるしかなさそうだ。
最初からかなり本気だけど、それはそれ。

何故なら俺はこれからもっと強くなる。
これから先、世界の未知を解き明かすために、もっともっと強くなる。
こんなにわくわくする戦いが他にあるものか。

ここで全力出さなきゃ、男が廃るぜ!



「勝負だッ!フェルエル!!」

「来いッ!アディス!」



偉大なる冒険家を目指すための第一歩として、
未知なる宝よりも大きい試練を手に入れたのだからな!








つづく


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