突然ですがこんにちわ。
ボクは草タイプの【ワタッコ】です。
…えぇとですねぇ…。
ボクはついこの間まで仲間と一緒に空の旅をしていたワケですよ。
…それで、ですねぇ…。
ある時、ボクたちの旅の要である【風】が突然止んでしまって、えぇと…。
そうそう、それで仲間が【沈黙の谷】の岩場に挟まって動けなくなったのですよ。
どうにか助けてあげたくて、ボクが救助隊に助けを求めるためにこの町に来たワケですが…


・・・最近の救助隊っていうのはみんなこうなんでしょうか?
どれだけお願いしても、お金を沢山払わないと駄目だって断られちゃうんです。
普段温厚なボクでも、流石にキレちゃいますよ、こんなことされたら。








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迷宮救助録 #6
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「アーティ!どこ行くんだよ!」
「いいからいいから!」
「ソウデス、細カイ事ヲ気ニシテハイイ女ニハナレナイノデス」
「よっ、よよ余計なお世話だよっ!」

どういうわけか本日は、早朝からアーティにたたき起こされて町の広場に連行された。
引っ張られながら聞いた話によると、先日の救助で手を貸してくれたこのエラルド=コイルが、チーム【ポケモンズ】に参加したいらしい。

「…モウエラルドデイイヨ…」
「そりゃどーも。…で、ここは何?」

拗ねた様に呟くエラルドに簡素な返事をすると、漸く目的地に着いたのかアーティの足が止まった。
そこには奇妙な雰囲気を漂わせる一軒の建物があり、看板には【ともだちエリア始めました】と書いてある。
始めましたって、夏を目前にしたラーメン屋の新メニューじゃあるまいし…

「プクリンのともだちサークルっていう店で、【ともだちエリア】を売ってくれるトコだよ。おーい、店長〜」
「冷やし中華食べたいなぁ」
「冷やし?何だソレ?」
「人間界(こっち)の話だよ」

【ともだちエリア】とは、救助隊の仲間がこの町で暮らすための住居施設のようなものだそうだ。
コイルは電気エネルギーの豊富な場所でしか生活できないため、条件にあった場所を用意する必要がある。
この店は、そのような事態のための不動産屋と言っても間違いではないだろう。

アーティの声が響いてから数秒待つと、店長と呼ばれたポケモン――【プクリン】が奥から顔をのぞかせた。
彼はワタシたちを一瞥し、事の次第を理解したらしくカタログを持って表に出てきた。

「…それなら、無人発電所ね。Cの43番地が空いてるから、そこのスペースを貸し出してあげるよ」
「ありがとうな、それじゃコレ代金」
「まいどありぃ〜、これカギね」

発電所のカギを受け取り礼をすると、プクリンは再び奥へと引っ込んでいった。


…彼は、実は引き篭りなんじゃないかって思う。
ともだちサークルという店を隠れ蓑に…いや、考えすぎか。


「ビビ…コレデ大丈夫デスネ。コレカラヨロシクオ願イスル」
「ようし、オイラたちもいよいよ救助隊らしくなったな!頑張ろうぜユハビィ!エラルド!」
「結局アーティもエラルドって言ってるじゃん…別にいいけどぉー…眠いんだからもうちょっと寝かしてくれても…」

ワタシが欠伸をしながらそう言いかけた時、背後…広場の中央にある公園から、緑色の閃光が空に向かって放たれた。
人間だった頃、ポケモンリーグのテレビ中継で見たことがあるような気がする。
アレは、草タイプの至高の必殺技【ソーラービーム】だ。

「ユハビィ、何かあったみたいだ!行ってみよう!」
「行ってらっしゃぁい…ふあぁ…」
「コ、コンナノガリーダーデイイノカ…?」
「強制連行!」
「痛っ!?頭の葉っぱも一応神経通ってるんだから噛まないで!いたいいたいっ!」

トレードマークの頭の葉っぱを自慢の大顎で咥えられ、そのまま広場の公園まで連行されるワタシ。
駄目だ、寝起きだと反撃する気力も起きない…
穴とか空いたらどうしてくれるんだ。




……よく見たら空いてるし。最悪だ。









………



広場には案の定人だかり…もといポケモンだかりが出来ていた。
そりゃあ街中であんな大技ぶっ放すなんて、よほどの事が無い限り在り得ない事だからな。


「ちょっ、え?お、おま!自分で救助に行った方がいいんじゃ…」
「黙れ…貴様の声などもう聞きたくも無いわ…我がソーラービームで、今度こそ朽ち果てるが良い」
「性格変わってるしっ!!だっ、誰か!ヘルプミィィィィィィッィイイイイ!!」


「…アーティ、アレ何?」
「アレはお金にがめつい事で有名なチーム【テングス】だよ。真ん中でビビりまくってるのがリーダーの【ダーテング】な」
「ソノ脇デ黒焦ゲニナッテイル2匹ガ、ダーテングノ進化前ノ【コノハナ】タチダナ」

【ダーテング】と【コノハナ】…草タイプだが、見た目はどうもワルっぽい。
テングの方はヘンなヒゲ生えてるし、コノハナは目つきが悪い。
なるほど、お金にがめついっていうのは聞かずとも想像できそうだ。

…しかし。

この状況はいったい、どういうことなんだろうか?
チーム【テングス】は壊滅寸前な状態で、眼前には鬼の形相を見せる【ワタッコ】がソーラービームを構えている。

ワタシの推理が正しければ、救助の事でお金に関するモメごとが起きて依頼者がキレた…っていう所か。

「最近のワタッコって怖いねアーティ」
「いや、流石にアレが大多数ってワケじゃ…ないと思う…」

なんて言ってるうちに、チーム【テングス】を地獄へ叩き落す死刑判決が下された。
誰もが目を覆い、ダーテングの断末魔…正確には声にならない悲鳴だけが虚しく木霊した。

閃光一閃、常軌を逸する破壊力を秘めた緑色の光線がダーテングを貫き、のどかな町の広場に残酷な結末が広がった――かに見えた。
実際はソーラービームの眩しさに誰もが目を背け、或いは覆っていたため、その瞬間を見ているものは張本人のワタッコだけだった。



――ソーラービームは軌道を大きく外し、空へと消えた。



「な、一体何が…!」


「その辺にせんか、ダーテングよ」


「お、おまえは…フーディン!チーム【FLB】…何故ここに!」



尻餅をついているダーテングと、ソーラービームの連発でやや疲弊気味のワタッコの間に、FLBのフーディンが割ってはいる。
こいつら、他人のモメごとに首突っ込むの好きだよなぁ…
アーティはといえば、エラルドと一緒に目を輝かせてキャーキャー言ってるし。
アイドルの追っかけですかアンタらは。

「ダーテングよ、救助を引き受けてやれ。お前のウチワならワタッコたちを助ける【風】を起こすことが出来るだろう。簡単な事ではないか」
「いや、あの…自分、もう限界なんスけど…」
「はっはっは、情けないなダーテング。どうだ、俺の炎で活気をつけてやろうか?」
「やめろリザードン、本気で死ぬぞそいつ」
「冗談だよ。にしてもバンギラスが口挟むなんて珍しいじゃないか」

説得してくるフーディンに既に息も絶え絶えなダーテングが応える。
冗談交じりで尻尾をダーテングに近づけるリザードンを、バンギラスが制止する。
ちょっと面白い光景だ。

「わかった、わかりました!チクショウ行くぞお前ら!」
「「へっ、ヘイオヤビン!」」

フーディンから受け取った薬で一通りの回復を済ませ、ダーテングたちが【沈黙の谷】なる場所へ向かう準備を始める。
ワタシは、この時点で一つだけ確信を得たことがあった。

「…FLBって、水戸黄門…だよね」
「あ?みとこーもん…?何だソレ?」
「うぅん、なんでもない…」

こいつらは知らないんだ。
あの国民的時代劇を。
まぁ知ってたらそれはそれで吃驚だけど。

結局チーム【テングス】は、折角だからという事でその場に居合わせた全員で見送られる事になった。
多分、廊下に立たされるとか、そういう系統の辱めだと思う。
ドンマイ、チーム【テングス】…夢をありがとう――ワタシはそっと、道端に生えていたタンポポの花をダーテングの後姿に重ねて風に流すのだった。






………





数時間後、救助基地兼ワタシの家にて、チーム【ポケモンズ】は集合していた。
さっそく本日の任務をこなそうというわけである。
アーティがゴホンとわざとらしくセキをし、ポストに向かってズッシリと歩いていく。
普段はそんなことしないのに、新入りを前にしてるからイイトコ見せたいのだろうか?
と、そこへ――


「ケーーッケッケッケッケ!チーム【ポケモンズ】ってのはここかァ!?」


奇妙な笑い声が響き渡り、顔を上げるとそこには3匹のポケモンが立っていた。
まさか本当にそんな笑い方をするヤツに出会えるとは夢にも思わなかった、というのは如何でもいい余談である。

「…なんも無いわねぇ…こんなんで救助隊として活動してるなんて、アタシ信じらんな〜い」
「シャシャシャ!ポストがありますぜ!ゲンガーのダンナ!」

奇妙な笑い声のヘンなの、カマ口調のヘンなのと蛇みたいなヘンなのの計三匹が、屋根の上からこちらを見下している。

「…何なのあんたたち…救助以来者―ってワケじゃなさそうだけど…」
「お前らはチーム【イジワルズ】!!【トップアイドル】に続いてお前らまでオイラたちの邪魔をする気か!」

「そーのとぅーり!邪魔するのが俺達イジワルズの宿命(さだめ)だからなッ!ケーッケッケッケッケッケケケ!デェイ!」
「とうッ!」
「シャア!」

謎の掛け声と共に、三匹の馬鹿が屋根から飛び降りる。
中央の馬鹿はふわりと着地し、両サイドの二匹もドスンと音を立てて見事に着地して見せた。
目にうっすら涙を浮かべているように見えるのは気のせいだろう、馬鹿ばっかりだ。

「くっ、ずるいぞ!高い所からポーズキメなんて!オイラでさえやったこと無いのに!」

「ケーッケッケ、なら待っててやるからお前もやれよ」

「なんだと!?よしユハビィ!やるぞ!」
「歯を食い縛れ、屋根の上まですっ飛ばしてあげる」
「す、すいませんでした…」

突然の来訪者に吠えるウチの馬鹿を牽制し、イジワルズのほうを見る。
彼らは、以前に聞いた(ような気がする。実際の所興味が無かったから覚えていなかったが。)ガラの悪い救助組織――チーム【イジワルズ】。
そのリーダーは中央にデンと構えるゴーストタイプの【ゲンガー】、右側に控えているカマ口調のポケモンは、エスパー/格闘という珍しいタイプを持つ【チャーレム】。
左にいるのは、見たまんま蛇の【アーボ】だ。

ここ数日、ホントトラブル続きだな…
真剣に病気になりそうだ。

鬱気分でため息をついていると、ゲンガーがツカツカと歩き出し、突然ウチのポストを漁りだした。

「ケケケー!おっ、救助依頼あるじゃねーか!俺達が頂いていくぜ!ケケケー!」

「あっ、何すんだお前ら!それはオイラたちに届いた依頼だぞ!返せ!」

アーティが叫ぶが、ゲンガーは何食わぬ顔で依頼をチャーレムの持つカバンに詰め込んでいく。

「ケケッ!依頼なんて誰が解決したって一緒だろうが!?解決したモン勝ちなんだよー!ケーッケッケ!帰るぞおまえら!」
「うっふふ、じゃあね、ばいばーい」
「シャシャシャ!あーばよゥ!」

「チクショウ!待ちやがれ!…くそっ、行っちまった…」
「アーティ、追いかける気あったの?」
「…そ、そこそこな」
「ソコソコデスカ」
「…歯を食い縛れ」
「ゆっ、ユハビィだって追いかけなかったくせに!」

まぁ、確かに相手のメンツを見ると深追いしてもこちらが危ないのは必然だ。
下手に手を出しても、また以前の【トップアイドル】の時の二の舞になってしまう。
ここは大人しくしていて正解だろう。それよりも――


「アーティ、ポスト…」
「あぁ、そうだった。…っ!ああくそッ!あいつら全部持って行きやがった…ッ!」
「全部、トイウコトハ今日ノ依頼ハ…」





今日の依頼は…





依頼は…























          ……計画通りッ













「ユハビィ、突然後ろ向いて何してんの?」
「ん?な、なんでもないよ」

ワタシは口元を吊り上げ、アーティたちに背を向けて家の壁に手をつく。

駄目だ、こんな顔を見られるわけにはいかない。
堪えるんだ、いくらあの【イジワルズ】のおかげで今日の救助活動がお休みできるからって、それを堂々と喜んじゃいけない。
こっそり、あくまでばれない様に自然に事を運ぶんだ。
大丈夫、ワタシなら出来る。やってやる、今日は一日中ゴロゴロして過すんだ…

笑いを堪えるのがこんなに大変だとは思わなかったよ。
ニヤニヤしてしまう自分の表情を落ち着かせ、ワタシが今日は仕方ないねと言おうとする。
…のを遮ったのは、聞きなれた翼の音だった。




バサッバサッ


…スコン


バサッバサッ





「……」

「やった!新しい救助依頼が届いたよ!よかった、これで救助が出来る!よかったなユハビィ!エラルド!」

「あ、あぁ、そう、だね」


ワタシがアーティたちに背を向け、これから起こり得るあらゆる事象についての対処法を熟考し、行動を開始しようとしていたまさにその時。
ペリッパーは新たな依頼をポストに入れて飛び去っていった。
…このタイミングでペリッパーが来るとは、考えもしなかった。
普段ならもっと早い時間に依頼が来るから、今日はもう来ないと思っていたのに…
何故、今日に限ってこんな時間に…ッ!

「あ、アーティ、まだそれが本当に依頼かどうかはわからない…だろ?」
「そうだったな。さっそく確認してみるよ」
「ちがっ、待ってアーティ!そ、そのポストに入ったのは、きっと【ポケモンニュース】だ、今日は救助依頼は、ない…!」

【ポケモンニュース】とは、救助隊の間の噂や最近の事件などを纏めた救助隊の情報誌のようなものである。
普段こんな時間に救助以来が来る事なんて在り得ない、だからきっとソレはポケモンニュースだ、という考えだ。

「見てみればわかるよ」

「ッ!!まっ―――」

「……あ、本当だ、ポケモンニュースだよ…ちぇ」

ポストから出てきたのは、ポケモンニュース。
それを見た瞬間、ワタシの心の中に一つの絶対的な単語が湧き出した。









       勝ったッ!








ざぁまぁーみろイジワルズ!おまえたちのおかげでワタシは今日の休日を獲得できた!
やはり神はワタシを見ていた、ここ数日の労働基準法を無視しまくった任務の嵐に神が救いの手を差し伸べてくださったのだ!


「仕方ない、じゃあこの町の救助隊支部の掲示板を見に行こう。別にポストに来る依頼が全部ってワケじゃないしな」
「ナルホド、ソウイウコトナラ早速行コウ」






「―――――な」






なんだとぉーーーーーーーーーーーぅ!?







嘘だ、こんな事が在り得る筈が無い!
罠だッ!これはアーティが何としてでも救助隊のランクを上げようとしてワタシを働かせようとしている策略だ!







「―――――策略…まさかぁーーーーーーッ!!!」








背を向けていた。
怖くて、振り返れなかった。
それでも勇気を振り絞り、まさかという言葉と共にワタシは振り返り、そして――




「…気付いたか、ユハビィ。さぁ、諦めて次の任務へ向かおうじゃないか」





ニタリと笑う、勝ち誇ったアーティの顔を、ワタシはそこに見た。








「ウ…ウゾダ…ウゾダドンドコドォーーーーーーン!!」








アーティに手を引かれ、救助隊支部へ向かうワタシ。


もうホント、ホントに、










勘弁してください










つづく


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