朝。

窓から差し込むすがすがしい日差しをいっぱいに浴び、ワタシは漸く目を覚ます。
昨日何か夢を見たような気がするけど、思い出せないのでどうでもいい。

とりあえず今は――



「アーティ…アーティ」
「……」
「すぅー……アーティ!!!」
「……」
「…き、救助隊ーーーーッ!!」



何故か背中からキノコが生えてぐったりしているアーティを起こすのが先決だろう。







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迷宮救助録 #3
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「いやー、死ぬかと思ったよ。ありがとうなユハビィ」
「これで救助ポイントが増えればいいのにね…」
「オイラ救助申請してないから駄目だぞ」

救助申請――
要救助者が救助隊に依頼を出す事の総称で、この申請がなされた依頼をこなす事で救助ポイントが溜まる仕掛けだ。
ちなみに要救助者がダンジョンの奥底からどうやって救助申請をするのかといえば

「お約束でしょ」
「おう、ユハビィは飲み込みが早いなぁ」

そういうことである。
…もう、どうでもいいよ。
早く人間になりたい、じゃなくて戻りたい。

「つーわけで早速救助行くぞ、今日の依頼者は誰だ!」

勇んでポストを覗きに行くアーティ。その背中には、背びれの隙間からまだキノコが生えている。
ちょっとおいしそうだけど、ダンジョンで困ったら食べてみようかしら。
…それにしても、まさか自分の【眠り粉】にこんな特殊効果がついてるとは思わなかった。

「えーなになに、【助けてください:電磁波の洞窟5F、依頼主コイル】…」
「…またっ!?」
「ソノトオリ、マタナノデス」
「ぅひゃあっ!!」

アーティがポストの中の依頼文書を読み上げると同時に、背後に聞き覚えのある機械音声が聞こえた。
エラルド=コイルである。

「エラルド違ウ!タダノコイル!」
「突っ込みいれるのはセリフだけにしてよ。で、今度は誰がくっついたのさ?」
「オイラがまた引き千切ってやるよ」
「ソレナンデスガ…」



コイルに言われるまま、電磁波の洞窟の5Fにやってきた。
そして、そこには依頼内容通りに困っているコイルたちの姿があった。
前回同様、連結して困っているのだが――
――その数、5匹。

「くっつき過ぎでしょ!!」
「ゥゥゥ、不覚デアリマス」
「なんか既視感あるなー」

5匹で連結したコイルが地面をのた打ち回っている。なんかもう、コレもコレでアリだ。
しかし、こいつらは機械生命体のクセに学習という言葉を知らんのだろうか…
前回あれだけの目にあっていて、またここに来るなんてそうとうなアホと見える。
もう助けてあげようという気もすっかり萎えてしまうくらい。



「……おめでとう、それはコイルの最終進化形態、ペンタコイルだ……ひゅーひゅー、憎いねー………」



だからワタシはその場を誤魔化すためにそう言った。
案の定、アーティに突っ込みを入れられたが。



「ナニ言ってんのユハビィ!?助けるんだろ!?」
「ソウデスヨ!ソモソモ文字数ガ5文字ヲ超エテルジャナイデスカ!」
「そこはどうでもいいだろ!?」



ポケモンの名前はカタカナで5文字以内、暗黙の掟だ。
…それはさて置き、やっぱり助けなきゃ駄目なんだな…
もういいよ、サクサクっとやっちゃおう。

して、その方法といえばやっぱり――






………


「せぇーーーー」
「―――――のッ!!」
「グガギギギググッギョゲゲゲ!!チッ!千切レレレレレレ!」
「フンバレー!フンバルンダ兄弟ーー!!」
「あぁぁぁああああ!カバディカバディカバディ!」

…1時間経過

「ぜいっ、ぜいっ、あ、アーティ…これ、む、無理…」
「おっ、おうっ、オイラもっ、そう思ってた!」
「ガ、ガガガ…プシューーーー…」
「兄弟!目ヲ開ケロ兄弟ーーーッ!!」

結局千切れないので、その場の全員がもう投げやりだった。
2体の時は頑張れば千切れたが、5体ともなるとその連結力は凄いらしい。
どれくらい凄いかって、この1時間アーティに加えられてた一番端のコイルがそれはもう酷い有様になっているくらいだ。
どこかで見たことあると思ったが、アレは小学生低学年男子のエンピツの後端部によく似ている。
そして誰もが希望を失ったその時だった。

「おーーーーっほっほっほーーー!」

「誰!?」

何者かの高笑いが響き、直後3つの影がワタシたちの前に現れた。
1つは小柄、もう2つはかなり大きい。もはやフードを被っていてもその正体がバレバレだ。
小柄なヤツがフード付きのマントをバサっとめくり正体を明かすと、それに続いて後ろに控える独活の大木…大きい二人組もマントを取った。
ピカチュウとカイリュー、それにイワークだ。

「ごきげんよう爬虫類さん?こんな所でまた救助隊ごっこかしら?片腹痛いわねぇセバスちゃん」
「ふむ、全くですなピカお嬢様。お前たち、遊びなら他所でやりなさい。さもなくば私の【ドラゴンクロー】が炸裂しますよ?」
「ゴゴ…俺の【岩なだれクラッシュ】も、炸裂するゴゴ…」

「アーティ、何このムカツクやつら」
「いつもオイラに絡んでくるシルバーランクの救助隊、チーム【トップアイドル】だよ…お前らこそオイラの邪魔をするな!もうごっこじゃないんだ!」

いやなヤツオーラを全開にして突っ掛ってくる3匹に、アーティも噛み付く。
また面倒なことになってきたような気もするが、個人的にこいつらが気に食わないので隙あらばブチのめす事にしよう。
カイリューを除けば、草タイプであるワタシはある程度有利に戦えるはずだ。

「ふん、シルバーランクですって?それはあたくし達を馬鹿にしているのかしら?」
「…なんだと?どういうことだ!」
「ふむ…まぁいいでしょう。教えてあげましょう。これを見るがよい」

カイリュー…通称セバスちゃんが、バッグから黄金色に輝く救助隊のIDカードを取り出した。
それは紛れも無く全ての救助隊の憧れ、ゴールドランクの証である。
立場的に自分が言うのもなんだけど、やっぱりゴールドランクのカードはカッコイイ…

「ゴゴゴ…俺達、もうゴールドランク…」
「へぇ、見かけによらずやるんだ」

そう言ってやると、黄ばんだネズミ…もといピカチュウが今度はワタシに突っかかってきた。

「…あら、雑草がしゃべったわ。爬虫類、アンタも偉くなったものねぇ?たとえ雑草でも部下を持つなんて。おーっほっほっほ!」

「!」

…雑草。
…ワタシが…雑草…。
…………大丈夫。ワタシは、平気。
だってワタシは争いなんて好きじゃないし、自分が何を言われても我慢できるいい子だもん。

「とにかく、お前らがゴールドだろうが何だろうがカンケー無い!オイラたちの邪魔をしないでくれ!」
「ふん、いっぱしに自分が救助隊になった心算かしら?アンタみたいのでも救助隊になれるなんて、…最近の救助連盟は見る眼が無いわね」
「ふむ、それにその相方…ポケモンにしては随分中途半端な感じがしますな。本当に実はただの雑草なのではないのかね?」
「ゴゴゴ…それ、面白…ゴゴ」




……。




キレてないですよ。




ワタシをキレさせたら大したモンですよ。






「お、お前らいい加減にしろよォーーーーーッッ!!!」





「っ!?」
「ゆっ、ユハビィ!?」

「ワタシは何を言われてもいい!だけどアーティを馬鹿にすることだけは絶対に許さないッ!!」

「へぇ、言うじゃない。アンタたちって、そーゆぅカンケーなわけ?」
「違う、けど…ユハビィ、お前ってヤツは…」



…なんちゃって。

本当は動機なんて如何でもいいんです。
ただ、本気で暴れてみたいお年頃なんです。
どうやったらうまい具合に自分を正当化しながら暴れられるか、考えついた結果がこのセリフだっただけです。


「…覚悟して…もう、ワタシはワタシを抑えられない…」


…抑える気も無いですが。


「ふぅん、面白い。やっておしまい、セバスちゃん」
「ふむ…、まぁこれも仕方の無い事か…」


対峙するワタシとセバスちゃん。
相性的に言えば【飛行】タイプを持つカイリュー:セバスちゃんが圧倒的に有利だけど、そんなのは些事。
単純にこいつらをブチのめして、徹底的に躾けてあげたい。
それだけ、それだけでワタシはもう負ける気がしない。

「ワタシの大切な人を傷付けた…その罪、死んで償え!」
「ふむ…良い目だ。来い!老いたとは言えこのカイリュー、貴様如きに遅れは取らん!」


それを如何する事も出来ずたじろいで見ているアーティと、余裕で傍観しているピカチュウにイワーク。











…そして、バックで完全に忘れ去られたコイルたちが寂しく金属音を発するのだった。










つづく


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