第七章 ◇◇◇ 最終決戦、前哨戦

 氷の抜け道の手前、44番道路にある大きな池の前で体育座りをしている少女の姿があった。……というか、それがコトネだった。
 実のところをわざわざ語るまでもないかも知れないが、今現在、氷の抜け道は完全に封鎖状態にある。某Rの残党によって容易くラジオ塔を占拠されてしまった件もあるから、今回だって警察がまともに動くワケないだろうと、タカを括っていたコトネだったのだが……。

「人は学習する生き物ってことね……。いやいや、そんなことはどうでもいいのよ。このままじゃ華麗に犯人の前に姿を見せて、「ついに追い詰めましたよ!」とカッコよくキメる作戦が台無しじゃない……! ああもう、これだから基本路線がギャグなのは困るのよ!」

 ……要するにコトネは、フスベシティに入れなかった。
 今回は探偵役という事であちこちを駆け回っていたのに、最後の決着の地に辿り着けないなんて笑い者もいいところである。なんとかして侵入を試みようとしたが、本気を出した国家権力の検問は想像以上の強度を誇り、細身なコトネが全力で体当たりなどしてもお巡りさんの肉の壁を突破するのはダイヤモンドに爪で傷をつけることくらい不可能だった。
 ……まぁ、でも……。と、コトネは考える。
 ヒビキは、この世界で考え得る最強のトレーナーだ。犯人が逃走のために45番道路に向かうとしても、それは必ずヒビキに阻止される事だろう。そうなれば残された逃走経路はこの44番道路方面しかありえないわけで、即ちこの場所で待っていれば犯人の方からやってきてくれるに違いないのである。

「やたらと“ジョウト最速”に拘ったり、“ジムリーダーにしか開けないはずのジムで密室を作ってみたり”、“っていうか一番最初に私が挑戦したときにはもう不在だったり”。犯人は間違いなくあの人なのよ……。絶対に真実を暴いて、私大活躍! サブ主人公昇進! ヒロイン就任! 良い感じー! に、なってやるんだから!」

 コトネは立ち上がると、フンと鼻を鳴らして空を見上げる。
 何処までも続く青い空が、僅かに薄い雲で白んでいる……その晴れとも曇りとも取れない微妙な天気が、そこはかとない風情を感じさせる秋の日であった。

「あー……。出番欲しいー……。」

 本音がポロリ。他の誰にも聞かれたくない一言を呟いたその瞬間、コトネは何者かの足音を聞いて全身でリアクションを取る。どう見ても過剰反応であからさまに怪しい動きになっていたが、そこに現れた足音の主は今更そんな不審な動きにツッコミを入れる気もないようだった。

「――まさか、お前が犯人だったとはな……コトネ。」
「えっ……?」

 不意に、予想外の言葉を投げ掛けられ、コトネは思わず帽子が頭から転がり落ちるくらいのスピードで、現れた人物を二度見する。
 そこには――今、この場所にいてはならない人物がいた。そこにいると、他の全ての作戦が台無しになってしまう――そういう人物がそこにいて、それでいて冷ややかな目でコトネを見据えていた。

「ひ、ヒビキ……! なんで此処に!? 犯人って何、何を言ってるの!」
「こんな事もあろうかと、ミカンと電話番号を交換しておいて良かった(本当はコッソリ盗み見したんだけど、それは絶対に秘密だぜ☆)。……ミカンから聞いたよ。タンバジムを潰したのも、全部お前と、お前が盗み出したデンリュウの仕業なんだろう?」
「ち、ちが……くはないけど……! でもそれとこれとは話が……、」
「デンリュウを律儀に返したのが失敗だったな。そういうところから足がつくんだ。お前は、昔っからドジだな。さぁ、もう言い逃れは出来ないぞ。ジム襲撃なんて馬鹿げた事をしやがって。誰が主人公なのか、もう一度ここではっきり決着をつけようじゃないか。」
「だ、だからぁっ! そうじゃないって言ってるでしょ!? 今っ、まさにフスベシティで大変な事になってるのが、アンタ見えてないのぉっ!?」

 誤解を解くため、コトネが声を振り絞って叫ぶ。
 しかしそれを聞くヒビキの目は――なんだか、完全に明後日の方向を向いているように見えた。

「確かに、大変な事になっているかもな。」
「だ、だったら……!」
「だが、それとこれとは別の話だッ!!」
「はぁいっ!?」

 ズビシッ! と、指先を撓らせてコトネに向けるヒビキ。
 そこには、解くべき誤解など一つもなかった。ただヒビキの主人公としての鬱憤が今にも爆発しそうになっているだけだった。
 そのことにコトネが気付いた時には、もう、それは炸裂していた。

「ジム襲撃事件!? そんな……そんなのなぁ……、……付き合ってられっかぁぁあああああああああっ! こちとら赤い髪の不良になんか目ェつけられたり! ロケット団だの! 謎の舞妓さん五人衆だのと! 変な騒ぎに散々巻き込まれてもう嫌気が差してるんだよっ! 出来れば放っといて欲しいんだよ! 俺は普通の冒険がしたいんだよぉ! そんな時に颯爽と現れた俺の心のヒロイン(勿論ミカンちゃんの事だぜ☆)を灯台の天辺に監禁するだなんて言語道断だッ! それだけは断じて許せねぇッ、俺が一番許せねぇのはそこなんだ、それ以外はどんなことでも許そう、だがそれだけは絶対に許しちゃいられねぇっ、それを許しちまったらなぁ……、俺の、俺の魂が、赤黒くくすんじゃうよぉぉおおおおおおぉっ!! うひょぉおおおおおおおおおおおぉっ!!」
「ば、……この馬鹿っ!! それはアカリちゃんが勝手にやったことで私は関係な……、」
「そもそもどうして俺ばっかりこんな目に!? お前がサブ主人公としてもうちょっと協力的だったならきっと俺の負担も3割減くらいにはなっていたはずだろう!? 畜生、よくもサボりやがったな! たまに電話くれたかと思えばマリルから雑巾みたいな匂いがするってダレトク情報だよふざけんなッ!? マジふざけるなよ、調子乗るのも大概にしろよぉッ、寝言は寝て言え! 夢は寝て見ろよぉっ! ちくしょぉ! ちっくしょおぉっ、うおおおおおおおおッ! ちぃいくしょおおおぉぉおおーーーーーっ!! 完全体になりさえすればシステムの壁如きにぃぃいいいっ! 俺とミカンちゃんの恋路を邪魔されずに済むのにぃぃいいいいいいぃっ!!」

 ……何故か涙を流しながら、見当違いな事を必死の形相で叫ぶヒビキ。それは既に、コトネが手に負える状態ではない。というか手に負える人間なんて多分いない。言ってることが途中から無茶苦茶にも程がある。
 そもそも、“主人公になる”とは“そういう事なのだ”と、両者納得の上でこの形に落ち着いたのに、何を今更文句を言われなければならないのか。
 主人公がトラブルに巻き込まれるのが嫌だと言うのならば、最初から主人公の座を自分に譲ってしまえばよかったのだ。ジムバッジを8個集めた今頃になって、サブ主人公の出番の少なさを非難するなど筋違いにも程がある。
 つまり……ヒビキの激昂は、コトネの堪忍袋の緒を乱暴に引き千切るのに十分だったわけで。

「……わ、私だってねぇ……! 好きで出番無かったワケじゃないんだからッ……! 何よその言い草っ、アンタに私の気持ちが解るの!? マリルから雑巾みたいな匂いがするくらいしか話題のない部屋に閉じ込められてた私の苦痛が、アンタにどれくらい理解できるって言うのよぉぉおおおおお!」
「言葉はいらねぇッ、ポケモンバトルだッ!! 拳で語る以外に道はねぇって事をまだ解らないお前じゃないはずだ! そうだろコトネぇッ!」
「…………そうね、そうだわ、その通りだわッ、じゃあ儀式をしましょう! 私が完全なる勝利を手にする儀式をッ!! Only the victor is a justice ッ! そんなに吼えたければ今すぐ負け犬になって好きなだけ遠吠えするがいいヒビキぃッ!」

 ――勝つのはッ

「私だぁぁぁああああああッ!」「俺だぁぁぁああああああッ!」



 ……後に、その血で血を洗う雑巾臭い戦いを目撃していた釣り人は語る。
 あれこそ、神話に語り継がれた幻の“裏ジョウトリーグ”の決勝戦だったのだ、と……。



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 物事に終わりがあるとすれば、それは得てして儚いものであるのが世の常だろう。
 一瞬のうちに派手に散る花火も、長い時間を掛けて沈む豪華客船も、終わってしまえばそれは、長い長い歴史の中のたった一ページに集約される。
 だから、どんな風に着飾ってみようとも、“終わり”とは呆気無いものの域を超えないのだ。
 しかし、それを知りながらも人は、美しき最後を願う。
 生きとし生けるものの誰もが、それを願ってしまう。
 それは何故か。
 ……永遠に、叶わないからだ。
 絶対に届かない理想にこそ、人々が追い求めてしまう魔性の魅力がある。理論上は可能なはず。でも、現実には不可能。その塩梅が麻薬のようにヒトの心に染み込んでいくから、彼らはその魔力から逃れる事が出来ない。
 果てしない高みがある事を知るから、人は限りなくそこへ近い場所に向かって歩き続けずにはいられない。
 それこそ、まさに生きるという事。
 ホウオウもまた例外ではなかった。
 終わりを持たないはずのホウオウでさえ、その魔性からは逃れられなかった。
 ――そしてホウオウは千年の時を掛けて、ある一人のトレーナーを見つけた。
 それは、赤い帽子を被っていた。まだまだ未熟で頼りなく見えたが、その内に秘めた運命の糸を手繰る力を見抜けないホウオウではなかった。
 無限の時を生きるホウオウは、そのトレーナーと戦うためにスズの塔へと舞い降りた。
 運命の糸を手繰る力があるのならば、きっとスズの塔の最上階で待つ自分の許に、最初に現れるのはあの赤い帽子の少年に違いない。
 そして激しいバトルを繰り広げて――その手腕で、自分を捕まえて見せるに違いないのだ。
 永遠を生きるホウオウにとって、ヒト如きに捕獲されるのは本来ならば屈辱かも知れない。でも、少なくともこの時のホウオウにはそのような感情は微塵も無かった。
 これから僅かな時間を、自身の認めた人間と共に過ごす。
 その先に描く未来に、少なくない期待を抱いている自分がいる。
 どんな物語が紡がれるのだろうか。
 それはきっと、この千年にも勝る輝きを放つに違いない。
 ……しかし、その淡い夢も虚しく。
 ホウオウの夢が、果たされる事は無かった……。

「どうしたのです、ホウオウ。」
「……いや。近くに、懐かしい気配を感じただけだ……。」
「……………………?」

 フリーザーは首を傾げるが、それ以上は何も訊かなかった。
 シロガネ山の岩壁に氷漬けにしたカイリューを残し、ホウオウは翼を広げて再びフスベシティ上空を優雅に舞う。
 ……あのトレーナーの事を、今更思い出しても無意味な事だ。
 今や自分は、別のトレーナーに使役されるだけの存在。余計な事を考える必要などなく、ただ忠実に命令を遂行していればそれでいいのだ。
 フスベシティでは、ローブで全身を包んだトレーナーをイブキや警官らが包囲していた。
 ホウオウとフリーザーを呼び出して以来、他のポケモンを呼び出そうとする気配は無い。キングドラに追い詰められ、状況は完全に事件解決の局面へと向かっていた。

「……さっさと次のポケモンを出したらどう? トレーナーならトレーナーらしく、バトルで足掻いて見なさいよ!」
「…………。」

 イブキが挑発する。
 しかしその言葉に襲撃者が乗ってくる事は無く、それを囲む包囲網はジリジリとその半径を縮めていく。
 ホウオウとフリーザーが戻ってくるのを待っているのか。その二匹さえ戻ってくれば、この絶望的状況を打開できるとでも思っているのか。
 いや。いくらホウオウやフリーザーの力が絶大なものであっても、これだけの人数を相手に戦うことは不可能に近い。つまり、現状ではもう、勝敗は決したも同然なのだ。
 それでも、ローブの男はホウオウを待つしかない。フリーザーを待つしかない。他に、戦えるポケモンなどいないのだ。
 ローブの男が後退する。背後には、大きな湖がある。ドラゴン使いの一族が修行に用いる“竜の穴”を囲む泉だ。そこに飛び込んで時間を稼ごうとでも言うのだろうか。しかし、イブキはそれさえも許さない。すかさずキングドラが、その泉に飛び込んで退路を断つ。

「ホウオウ、何をしている、早く戻って来いッ……、くそ、あのノロマがッ……! どいつもこいつもッ…………くそぉおおっ!!」
「……無様だな。」

 冷たい言葉が放たれる。
 巡査だった。ガーディを3匹並べ、犯人を追い詰める。

「あの置手紙、そして警察無線での挑発。お前の望み通り追い詰めたんだぞ。少しは潔くしたらどうだ。」
「じ、巡査……。」

 犯人は驚いたような口調で言う。
 ローブで半分以上を隠された頭が一瞬、大きく揺れた。
 巡査は全くそういう風には考えていなかったが――犯人には、巡査と面識があるようだった。

「このゲーム、俺の勝ちだ。」
「……ふ、ふふ……はははは……。負け、か……俺の……。」

 途端に、観念したかのような態度で、犯人はローブの下からボロボロとモンスターボールを落す。あわせて6つ。2つは恐らくホウオウとフリーザーのもので、4つは元々の手持ちポケモンなのだろう。それは、戦意喪失と同じ意味を持つ行動だった。
 ポケモントレーナーがその手持ちポケモンを手放す事は、何よりも解りやすい敗北の意思表示であるからだ。
 ……でも、それを誰が決めた?
 少なくともその行為が法的な強制力を持つものではないことを、犯人だけは知っていた……!

「フリーザぁぁああああああああああああぁッ!」

 叫ぶ。その声が天を貫く。
 いつのまにか、青空は白んでいた。薄い雲が、静かにフスベシティを包む。
 突如、真っ黒な影がその雲間から飛び出した。それは真っ直ぐに巡査を狙う。

「ッ! 迎え撃てガーディ!!」
「ガウッ!」
「援護して! キングドラ!!」

 巡査の命令で飛び出した三体のガーディを、竜の穴の前の泉に潜んでいたキングドラが飛び出して支援に回る。その時、何者かが放ったモンスターボールが、キングドラを直撃した。

「……え!?」

 キングドラの姿が掻き消え、後にはカタカタと揺れるモンスターボールが残る。
 しかし誰もが知っていた。キングドラはイブキの所有するポケモンだ。既にゲットされているそれを、別の誰かがモンスターボールで捕まえる事は絶対に不可能なのだ。今は一時的にボールの中に入っているとしても、すぐにボールに仕掛けられた不正防止装置によってキングドラは自由を取り戻すに決まっている……!

「だがこの一瞬、キングドラの支援はないッ!」
「しまった…………!! 戻れガーディッ! 罠だァッ!」
「お前たちがベルトにつけたモンスターボールを手に取り、ポケモンを出すまでに何秒掛かる? どうせそれは、俺が足元にバラ撒いたボールの全てからポケモンを出し終えるより遅いッ!!」

 黒い影に向かって飛び出したガーディ。いや、今にして言えばそれはガーディに迫る黒い影と呼んだ方が正しい。巡査の視線は完全にその方向へ向いていて、イブキの目はまだ、犯人が放ったモンスターボールに囚われたキングドラを見ている。
 その間、僅かに一秒にも満たないほんの一瞬の間、ローブの男は足元に落とした6つのボールのうち、2つを蹴り上げる。乱暴に蹴られたためにボールが壊れたのか、それともポケモンを呼び出すスイッチを的確に蹴り抜いたのかは定かではないが、その場の全員の視線が自分から逸れた隙にローブの男は新たに二体のポケモンを呼び出していた。
 ムクホークと、オオスバメだ。どちらもジョウトでは非常に珍しいポケモンであった。

「な……っ! 何をボサッとしてやがるッ! 新手を出したぞ! さっさと制圧しろッ!!」
「無駄だ……ッ。俺が鍛え上げたこいつらの前では、お前たちはまともにポケモンを呼び出すことすら出来ないッ!! それを教えてやろう――!」

 ムクホークとオオスバメは、互いに目を合わせてコクンと頷くと、大きな翼を広げて空へと舞い上がった。一体何をするのかと、そんな事を考えている暇があるのならばさっさとポケモンを出して応戦すべきであったのに、この状況下でそこまで頭が回るのは巡査一人だけだった。
 なのに巡査のガーディはまだ飛び出したまま戻ってこなくて、そうしている間にも黒い影がどんどん接近してくるのに誰一人としてそれを迎え撃つ準備が出来ていない……!

「見せてやれ――ジョウト最速の力を!」

 ローブの男が右手を高く翳してパチンと指を鳴らすと、その瞬間に上空から凄まじい風圧が地上に吹き付けた。まるで台風がやってきたかのような暴風の前に、ローブの男を囲んでいたジム生や警官たちはまともに立っていることさえ出来ない。
 何よりも恐ろしいのは、先ほどカイリューが音速を破ったために地上に飛散していたガラス片が、この暴風の中であちこちを飛び回っている事だ。立っていられる人間もそうでない人間も、自分の身を守っている事で精一杯で、とても犯人に飛び掛ろうなどという余裕のある者は一人もいなかった。
 イブキや巡査も、辛うじて両足で立ってこそいたが、今更新たなポケモンを呼び出して応戦するなどとても不可能なように見える。状況は一方的に、どう控え目に見ても、犯人側からのワンサイドゲームだった。

「フッフッフ……! どうした。これはただの“かぜおこし”だぞ?」
「ば……馬鹿げてやがる……! なんて威力だッ……ホウオウが可愛く見えるじゃねぇかよ……!!」
「当然だろう。ホウオウは俺が屈服させて仲間に引き入れたのだからな。俺がホウオウより次元の高いポケモンを従えていて、何がおかしい?」
「くそッ……最初から、俺たちに勝ち目は無かったのかッ……!! だ、だが、それでも……ここで諦めるワケには……!」
「ハハハハハハ! それでもまだ抵抗を止めないというのか。ならば戦況を読めぬ可哀想なお前たちのために、いいことを教えておいてやろう。こいつらは、ホウオウの2倍のレベルがあるぞ。」
「なん……だと……!?」
「フフフ……! 理解したなッ、そして絶望したなッ!! だが、いきなり全力で戦ってすぐに決着しては面白くない。ホウオウが戻ってくるまでの間、少しハンデをくれてやろう。ムクホーク! 来い!」

 甲高い声で呼び掛けに応じ、すぐにムクホークは地上へと降り立った。そして翼を腕のように使うと、先端をクイクイと動かして「かかってこい」と挑発する。
 鳥ポケモンの本領は空中戦だ。それを捨てて、ムクホークは挑発している。
 まだ手元に戦えるポケモンがいない巡査が一歩後退するのと、一匹のガーディが彼とムクホークの間に割り込むのは同時だった。

「……ガーディ!」
「ガウ……。」

 ガーディは一瞬、切なそうな目を巡査に向ける。
 残り二匹のガーディは、少し離れたところで戦闘不能の状態になっていた。先ほど上空から落ちてきた黒い影の正体も、その近くで転がっている。よく鍛えられたオニドリルだった。かえんぐるまの直撃を受けてそのまま気を失ったらしい。尤も三匹のガーディのうち二匹を道連れにしたのだから、その活躍は値千金だった。

「まだやれそうか。」

 巡査の言葉にガーディが歯を食い縛り唸り声で答える。戦意は十分。あとは真っ向からぶつかるだけだ。それ以外にない。これは、勝てるかどうかの戦いではない。勝たなければならない戦いなのだ。

「いけ! かえんぐるまッ!!」

 ――そしてガーディが次に見たのは、不敵に笑うムクホークの横顔だった。
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